被爆地域拡大の行方
 =研究班最終報告= 上

被爆体験による心身の健康低下を認めた厚生労働省検討会。森座長(奥左)と、隣は篠崎同省健康局長=11日、東京の同省

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被爆地域拡大の行方 =研究班最終報告= 上 “壁”を乗り越えた

2001/07/17 掲載

被爆地域拡大の行方
 =研究班最終報告= 上

被爆体験による心身の健康低下を認めた厚生労働省検討会。森座長(奥左)と、隣は篠崎同省健康局長=11日、東京の同省

“壁”を乗り越えた

長崎の被爆地域拡大是正問題は、厚生労働省の検討会が十一日、未指定地域の住民の心身の健康に被爆体験が悪影響を与えていると判断したことで、拡大実現へ向け新たな局面を迎えた。来月一日の検討会の報告提出後に控える国の方針決定に向けて、現地調査した同省研究班の総括報告と、これを受けた検討会の議論が持つ意味を検証した。

■科学的調査

「研究班と検討会は一心同体と思う。研究班報告を検討会の報告にするという方針で進めてよろしいですか」

東京の厚生労働省で十一日開かれた第四回検討会。それまで討論の司会役に徹してきた座長の森亘日本医学会長が、委員たちに諮った。

研究班報告は、未指定地域の被爆体験者が、その体験によるトラウマ(心の傷)症状を抱え、精神、身体両面の健康に悪影響を及ぼしている状況を描き出した。森座長の言葉に、委員から異論はなかった。この瞬間、同省が受け取ることになる検討会報告の内容が事実上決まり、傍聴席に陣取った伊藤市長ら本県関係者からホッとした表情が広がった。

ところが、閉会まであと十分ほどになったころ、突然、委員の長瀧重信・放射線影響研究所顧問が発言を求めた。

「この報告を科学的な調査と受け取るかどうかは議論しないのでしょうか」。元長崎大医学部長でもある同氏は「科学的」という表現を繰り返し使いながら、森座長に問い掛けた。それは、被爆地の悲願である被爆地域拡大是正の要求が「地域拡大は科学的、合理的根拠がある場合に限る」とする旧厚生省方針の“壁”に二十年間以上ことごとくはねつけられてきたからだ。

「研究班報告は科学的根拠となりうるのか」―。長瀧氏の発言に本県関係者も再び身を乗り出した。だが、森座長はあっさりとこう答え、委員を見回した。「科学的と考えてよろしいでしょうね」 この日、厚生労働省の所管責任者である篠崎英夫健康局長は、森座長の隣で検討会の討論を黙って見守っていた。会合後、記者団に囲まれると短い感想の後、「科学的根拠があるという報告をいただいたと思う」と言うと足早に立ち去った。

■最後の10分

傍聴した朝長万左男・長崎大医学部教授は「最後の十分間が重要だった」と振り返る。「『科学的』というのは当然、あれ(旧厚生省方針)を意識した議論。あの言葉が壁だったのだから」

十二日の長崎市役所。伊藤一長市長は記者会見に笑顔で現れた。「厚い壁をようやく乗り越えることができたものと考える」。同市長が注目したのも当然、検討会の最後の十分間だった。