被爆地域拡大の行方
 =研究班最終報告= 中

厚生労働省検討会で、研究班の最終報告を提出した吉川武彦・主任研究者(右)と金吉晴氏=11日、東京・同省

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被爆地域拡大の行方 =研究班最終報告= 中 精神医学的解析に理解

2001/07/18 掲載

被爆地域拡大の行方
 =研究班最終報告= 中

厚生労働省検討会で、研究班の最終報告を提出した吉川武彦・主任研究者(右)と金吉晴氏=11日、東京・同省

精神医学的解析に理解

被爆地域拡大是正問題の厚生労働省検討会が、被爆体験による健康低下を認める判断を下すより一カ月半前。五月二十八日の第三回検討会では、研究班の吉川武彦主任研究者が説明した現地調査の中間報告に対し、委員の評価は割れていた。

■「現在体験]

吉川氏は国立精神神経センター精神保健研究所名誉所長で、この分野の権威。現地調査は同研の金吉晴・成人精神保健研究室長が担当した。一方、それを評価する検討会委員(十一人)は、精神医学以外の専門家が半数以上を占めた。

「心の傷は、時間がそれを緩和させる部分もあり得る。体験から五十年以上たって影響が残るものなのか」

未指定地域住民について、被爆体験と心身健康状態の悪化が関連しているとした吉川氏の説明に、委員の一人が疑問を投げ掛けた。

吉川氏は静かな口調のまま、しかし訴えるように答えた。

「女性が受けるレイプなどが典型的だが、何十年たとうが『現在体験』として続行することがある。繰り返し思い出す限り、その都度現在体験なんです」

会合後、委員の中根允文・長崎大医学部精神神経科教授は、一連のやりとりを振り返り「精神医学的な解析そのものが問われた議論だった」と感想を漏らした。

■疑問は当然

今月十一日の第四回検討会。今度は、研究班の最終報告に対する異論は出なかった。その論旨を検討会報告とすることも了承された。この問題の地元専門家会議の朝長万左男・長崎大医学部教授は「前回、前々回の検討会の厳しい雰囲気を考えると、よくここまでたどり着けた」と話す。

吉川氏は「委員の専門は内科、公衆衛生、病理と多様。ある医学領域を他の専門家が見るとき、いろんな疑問が出るのはむしろ当然。こちらが説明し、理解してもらう時間を経て、合意ができていった」ととらえる。

吉川氏によると、精神医学による調査を他領域の専門家たちが議論し、評価する機会自体、過去ほとんどなかったという。同氏は「長崎の問題を離れてしまうが」と前置きして、「今回私たちにこういう場が与えられ、しかも理解を得られたことは、精神医学にとっても非常に大きな意味がある」と話した。