石井課長(左手前)に署名の数を示す高橋さん=6月20日、ウィーン

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確かな一歩 核禁会議を終えて・下 「被爆国」橋渡し役へ 力発揮を

2022/07/08 掲載

石井課長(左手前)に署名の数を示す高橋さん=6月20日、ウィーン

 「核なき世界」を目指す学生団体の共同代表で、広島県出身の高橋悠太さん(21)=慶応大4年=が手元のパソコン画面に映し出された「21065」の数字を示し、日本政府代表に詰め寄った。「オブザーバー参加すべきだ」
 核兵器禁止条約第1回締約国会議前日の6月20日、オーストリア政府が開いた「核兵器の非人道性に関する国際会議」の議場。画面の数字は、日本政府に締約国会議へのオブザーバー参加を求めるネット署名の数だった。
 唯一の戦争被爆国ながら米国の「核の傘」の下にある日本。核保有国と非保有国の橋渡し役を自任する政府は非人道性会議に参加し、高橋さんらに「ユース非核特使」のお墨付きを与えながらも締約国会議への参加を見送った。外務省軍備管理軍縮課の石井良実課長は「核兵器国が1カ国も参加しない状態での参加は論理的ではない」と淡々と答えた。
 対照的に、同じ「核の傘」の下にあるドイツやノルウェーなどはオブザーバー参加した。「条約に参加できない」と断言した上で「核なき世界という目標は共有している」と強調し、会場から拍手が送られた。オブザーバー参加国の関係者は「大事な問題が議論される場にいることが重要だ」と日本の不参加に失望感をにじませた。
 会議で採択されたウィーン行動計画は「核兵器の影響を受けている条約未加盟国と協力」と明記した。長崎大核兵器廃絶研究センターの中村桂子准教授(核軍縮)は「日本などを念頭に条約を前進させるための協力を期待している。日本は核被害者支援の枠組みづくりなどで貢献できる」と指摘する。
 50項目の行動計画を提示し、条約の実効性を高める「確かな一歩」を踏み出した今回の歴史的な会議。しかしながら、核抑止政策を堅持する国々の抵抗は根強く、オブザーバーも含め参加国は国連加盟国の半数にも満たない83カ国・地域にとどまった。ロシアのウクライナ侵攻で核廃絶への道のりの険しさがあらためて浮き彫りになる一方、核の国際秩序維持のため柔軟姿勢に転じた米国がドイツなどの参加を黙認したとの見方もある。
 行動計画には、保有国や核抑止に頼る国に関与し、対話の機会を設ける項目も盛り込まれた。保有国も参加する核拡散防止条約(NPT)との相互補完性を強調し、「調整担当」を任命するとした。
 核軍縮の舞台は、8月に米ニューヨークで開かれるNPT再検討会議に移る。保有国と非保有国の分断の溝を埋め、「核なき世界」への道筋を描けるのか、合意文書を採択できるのかが焦点となる。
 締約国会議の開幕日に岸田文雄首相のNPT再検討会議出席を表明した日本。「意義ある成果を目指す」(石井課長)とする政府に田上富久長崎市長は「橋渡し役として力を発揮し、保有国に核軍縮を働き掛ける役目もぜひ果たしてもらいたい」と求める。被爆国の政府として存在感を示せるか。被爆地、そして世界が注目している。