被爆地の輪郭
 核廃絶の潮流の中で 中

核兵器禁止条約をテーマにした「2020核廃絶広島会議」でスピーチする田上長崎市長(右)=広島市内

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被爆地の輪郭 核廃絶の潮流の中で 中 2020ビジョン
「10年で全廃」に疑問も

2010/08/07 掲載

被爆地の輪郭
 核廃絶の潮流の中で 中

核兵器禁止条約をテーマにした「2020核廃絶広島会議」でスピーチする田上長崎市長(右)=広島市内

2020ビジョン
「10年で全廃」に疑問も

「イエス・ウイ・キャン」。ステージで秋葉忠利広島市長はこう唱えた。同市で7月にあった平和市長会議(会長・秋葉市長)主催の「2020核廃絶広島会議」。田上富久長崎市長も一部出席。高揚感も漂う中、核兵器禁止条約の交渉開始や核軍縮会議の開催を各国政府に呼び掛けるアピールを採択した。

オバマ米大統領登場以降の核軍縮の世界的潮流を「本物」にできるか。世界に2万発以上あるとされる核兵器をどう削減するのか-。

二つの被爆地を中心とする平和市長会議が提案しているのが、あと10年で核兵器を全廃する「2020ビジョン」。潘基文国連事務総長も支持しているが「実際に10年で世界の核兵器をなくすのは不可能」との見方もよく聞かれる。

同ビジョンは、15年までに核兵器禁止条約制定、20年に全核兵器解体-などを目標としている。その一環として核廃絶プロセスを定めた「ヒロシマ・ナガサキ議定書」を08年に発表し、5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議で採択を目指した。

並行して秋葉市長は昨年10月、田上市長と20年夏季五輪招致を提案。長崎では反対の声が広がり、1月に共催を断念。広島市は単独開催を目指している。

144カ国・地域の4069都市でつくる平和市長会議は近年、加盟数が急速に伸びてきた。英語が堪能な秋葉市長の功績は大きく「アジアのノーベル賞」マグサイサイ賞も受賞した。しかし、ヒロシマ・ナガサキ議定書は、肝心の再検討会議の場で日本を含めて提案国はなく論議もなかった。

「議定書の問題点や提案国が見つからないことなど一切総括していない。しかし、それを批判しにくい雰囲気がある」。広島会議の会場で「核兵器廃絶をめざすヒロシマの会」(HANWA)の森瀧春子共同代表はそう話した。

閉会後の記者会見で秋葉市長に聞いてみた。「ビジョンを見直す考えは?」。市長は「時間的枠組みを持ち続けるということの意味が重要。いい方向で変化が起こっているとき、見直しをするという考え方が私には分かりません」。別の機会に同じ問いを田上市長にした際は「20年廃絶は厳しいとの見方があるが、積極的な目標を掲げるのはおかしくない。長崎の場合は20年がすべてという発信の仕方はしていない」と微妙なニュアンスを含ませた。

2020ビジョンは、被爆地長崎が広島と一緒に掲げる構想だ。あと10年という年限は広島市の五輪招致計画に絡む上に「被爆者が生きているうちに核廃絶を」という切実な願いに呼応している面もある。

土山秀夫元長崎大学長は「市長が10年で核兵器を廃絶できると言うのは勝手だが、このビジョン自体に核保有国は聞く耳を持たない。被爆者に幻想を振りまくのも罪作りな面がある。被爆地としてもっと実現可能な構想を提案すべきではないか」と話す。