核兵器と叡智
 NPT・ニューヨーク報告 8(完)

核兵器廃絶の決意をかみしめて歩む谷口さん(右)と広島県原爆被害者団体協議会理事長の坪井直さん=米ニューヨーク

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被爆証言「これからも」

2010/05/24 掲載

核兵器と叡智
 NPT・ニューヨーク報告 8(完)

核兵器廃絶の決意をかみしめて歩む谷口さん(右)と広島県原爆被害者団体協議会理事長の坪井直さん=米ニューヨーク

包囲網
被爆証言「これからも」

「核なき世界を望む人もいるだろうが、無関心な人も多い。歯がゆい」

7日午後、核拡散防止条約(NPT)再検討会議NGOセッション(討論会)の被爆証言を控え、谷口稜曄さん(81)は国連本部ロビーで怒っていた。被爆者の動きを報じない米国メディア、「原子力の平和利用」を掲げて原発建設に進む国々、核の傘を差し出す米国におもねる日本-。強い口調だった。「世界がもっと知恵を出し合って、人間が生きていける世界を考えなければ大変なことになる」

複雑なこの世界は簡単には動きそうもない。それでも最悪の兵器と最悪の物質を消し去ることができるのは人類の叡智しかない。それを信じ、谷口さんはNGOセッションで自身の被爆写真を掲げ、各国代表に訴えた。65年前、無残に傷つけられた背中に40万人以上の原爆死没者の無念と苦悩を感じながら。

オバマ米大統領は4月、北朝鮮とイランを除くNPTを順守する非核保有国に核攻撃をしないとした「核体制の見直し」(NPR)を発表し、米ロは戦略核弾頭数を減らす新条約に調印。初の核安全保障サミットは、核物質管理の声明を採択した。

核保有国は、核テロ防止を主眼に核兵器削減の道を進もうとしているようにもみえたが、NPT再検討会議では核廃絶の行程表作成を促す合意文書素案に反発し、非核保有国と対立している。イランの核開発問題、NPT未加盟国の動き、北朝鮮による魚雷が原因とされる韓国海軍哨戒艦沈没など不穏な状況は枚挙にいとまがない。翻って被爆国日本は非核三原則の法制化を受け流し、大臣は海外で原発建設のトップセールスに意欲的だ。

だが、核兵器に対する「包囲網」は確実にすそ野を広げている。NGOの潮流や核兵器禁止条約の実現を支持する国々の増加、被爆の実相を知った国内外の人々や被爆2世、次代を担う若者らの存在、宗教者の連携の動きなどだ。根底には被爆者が絶え間なく重ねた被爆証言の歴史がある。

谷口さんは帰国前、こう語った。「今まで通り、証言活動を続ける。証言しなくていい世界になればいいが、すぐにはならない。だから多くの人に被爆のことを、核兵器のことを知っておいてもらいたい。死ぬまで語り続ける」。被爆地も先を見据え、姿勢を保ち、歩まねばならない。