被爆60周年へ
 =ナガサキの課題= 3

崔季〓裁判への支援を訴え座り込む市民=11月15日、JR長崎駅前高架広場

ピースサイト関連企画

被爆60周年へ =ナガサキの課題= 3 戦後補償 今なお続く法廷闘争

2004/11/26 掲載

被爆60周年へ
 =ナガサキの課題= 3

崔季〓裁判への支援を訴え座り込む市民=11月15日、JR長崎駅前高架広場

戦後補償 今なお続く法廷闘争

「戦争中、アジアの皆さんにすまないことをした。償いをしないまま、現役を去った。せめてものおわびです」

十一月十五日夕、長崎市のJR長崎駅前高架広場。長崎で被爆した韓国人、故崔季〓さんの裁判を支援する座り込みの中に、声を振り絞る本島等・元長崎市長(82)の姿があった。

今年七月に亡くなった崔さんは生前、二つの裁判を起こした。その一つ、国外からの健康管理手当支給申請の可否を争った一次訴訟は九月、崔さんの訴えが認められた(被告の長崎市が控訴)。もう一つの裁判では、二十四年前に打ち切られた手当の未払い分など約九百六十万円の支払いを国と長崎市に求めている。

「被爆者はどこにいても被爆者」とした司法判断に従い、国は二〇〇二年に在外被爆者への手当支給制度を創設した。だが、制度創設以前の適用範囲は、地方自治法上の時効に照らして、「過去五年」(九七年十二月以降)の線を引いた。

「国が起こした戦争の結果、韓国人被爆者が生まれた。長い間、放置しておきながら、五年で線引きするのは納得がいかない」。同市の市民団体「在外被爆者支援連絡会」の平野伸人共同代表(57)は、過去にさかのぼった援護を求める二次訴訟の意義を強調する。

過去の償いを求めるもう一つの裁判も続いている。崎戸、端島、高島鉱に強制連行・労働させられた中国人と、連行された炭鉱から長崎刑務所浦上刑務支所に移送され原爆死した中国人遺族の計十人が国と三菱グループ二社などを相手取った損害賠償訴訟。昨年十一月に提訴、来月初めに原告八人と原告の遺族一人の集中尋問がある。

中国人強制連行訴訟は、不法行為から二十年で損害賠償請求権がなくなる除斥期間などの「時の壁」、国家賠償法施行前の行為に対する国の責任を負わない「国家無答責」をめぐり、各裁判所の判断が分かれている。

「極度の空腹。過酷な労働。原爆死。戦争が引き起こした悲惨な実態を放っておけない」。三鉱に強制連行され、原爆死した中国人の埋もれた事実を掘り起こしてきた高實康稔長崎大教授(65)は、原告の思いを代弁する。本島氏も「真実を歴史の闇に葬ってはならない」と繰り返す。

六十年近くたった今なお、被爆地の法廷で歴史への問い掛けが続いている。

【編注】〓は「徹」の「ぎょうにんべん」が「さんずい」