被爆60周年へ
 =ナガサキの課題= 4

被爆体験者の居住要件などについて話し合う検討会のメンバー=11月19日、東京都内

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被爆60周年へ =ナガサキの課題= 4 被爆体験者の居住要件 論議進まず地元に不安

2004/11/28 掲載

被爆60周年へ
 =ナガサキの課題= 4

被爆体験者の居住要件などについて話し合う検討会のメンバー=11月19日、東京都内

被爆体験者の居住要件 論議進まず地元に不安

「なかなか本論に入らない。非常に不満だ」

今月十九日、東京都内で開かれた厚生労働省の検討会。「被爆体験者」に対する医療給付の居住要件に関する議論を傍聴した長崎市の内田進博助役は、表情をこわばらせて会場を後にした。

「こんなに治療を受ける人が多いのか」「精神疾患の治療を受けている人がそんなに多いとは思えない」。居住要件というより、現行制度の在り方そのものに疑問を投げ掛ける専門家の委員―。三回目となるこの日の会合は、予定の二時間を三十分も超えたが、論議の進展はわずか。居住要件の緩和で一刻も早い救済を求める被爆地の願いを裏切る展開に、地元には不安が広がり始めた。

問題の発端は、二〇〇二年四月に被爆地域が爆心地から半径十二キロ以内の全域に拡大された際、医療費支給の対象者を十二キロ圏内に居住している人に限定したことにある。「居住地で線引きされる根拠は何もない」。圏外に取り残された住民からは当然のように不満の声が続出した。

県と長崎市は昨年秋、専門家でつくる調査委員会を設置。国が被爆地域拡大の根拠とした〇一年の健康実態調査に基づく形で調査を行い、十二キロ以遠で県内に居住する被爆体験者にも「精神健康の悪化が認められた」との結論に達した。

国は十月、居住要件と現行制度の在り方を話し合う検討会を設置。地元長崎の関係者は、「居住要件がどの程度緩和されるのか」を焦点に、期待を抱いて論議の行方を見守っていた。

しかし、検討会の作業は遅々として進まない。内田助役は「検討会は居住要件の緩和を話し合う会議と理解している。来年度予算に間に合わせたいと言いながら、八割以上は違う論議だ」と焦りをにじませる。

「国は支出を抑えるために検討会を利用しているのではないか」。長崎ではこんな憶測も広がり始めた。

背景には、財政難が深刻化する中、昨年度の医療費支給総額(約十二億五千万円)が、国の予想(約三億三千万円)を大きく上回った現状がある。検討会では「被爆体験と無関係な疾病にも医療費が支給されている」と、不適切さを指摘する声が上がる。

十二キロ圏外に住む西彼三和町の被爆体験者、岩永千代子さん(68)は嘆く。「原爆を知らない政治や行政が私たちを排除しようとしている。もう疲れ果ててしまった」