認定行政を問う
 =原爆症 集団申請へ= 3

被爆者との面談など集団申請の準備に追われる広島県原爆被害者団体協議会の被爆者相談所=広島市内

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認定行政を問う =原爆症 集団申請へ= 3 効き目
国の指示に医師委縮

2002/07/08 掲載

認定行政を問う
 =原爆症 集団申請へ= 3

被爆者との面談など集団申請の準備に追われる広島県原爆被害者団体協議会の被爆者相談所=広島市内

効き目
国の指示に医師委縮

「じわじわ効き目が出てきている」。原爆症認定の集団申請を前に、広島の被爆者の申請準備をしている広島県原爆被害者団体協議会(金子一士理事長)の渡辺力人・被爆者相談所長が言う。

「効き目」とは、今年二月に同県であった被爆者指定医療機関医師研究会での厚生労働省側の説明の影響を指す。被爆者にとっては、マイナスの効き目だ。

説明資料には、被爆者が申請する際、医師が添付書類として書く意見書に関する記述がある。そこには「原爆放射線との因果関係については高度の蓋然(がいぜん)性があることを求めており、相当程度の蓋然性では不十分」「高度の蓋然性があると意見する場合、その根拠を具体的に示すことが必要」とある。

渡辺所長は「ああ言われたら現場の病院は委縮する。実際に被爆者が申請したいと申し出て、医師が意見書を書いてくれなかった例がある」と話す。日本被団協は「今のところ広島以外で影響は聞かないが、これは国による圧力だ」と憤る。

「高度の蓋然性」。これは、長崎原爆松谷訴訟で二〇〇〇年七月に最高裁が下した判決文の中に出てくる。原爆症認定を求めた松谷英子さんが勝利したこの判決で、最高裁は認定要件のうち、放射線起因性の証明の程度について「高度の蓋然性」を求めた。

「厚生労働省は最高裁判決を悪用している」。広島大総合科学部の田村和之教授(行政法・社会保障法)は「多くの医師にとって、被爆者の傷病の放射線起因性を断定する記述は難しい。同省の指示は医師に意見を書くなと言っているようなもの。申請窓口を閉じるのと同じだ」と指摘する。

同省健康局総務課は、研究会での説明内容を明らかにしないが「審査の際、放射線の影響を示す材料や根拠がないと判断もできない。『影響の可能性は否定できない』といった表現では、やはり困る。医師にはそれを求めたい。申請する被爆者に求めているのではない」と話す。

田村教授は「紛争解決のための裁判と、被爆者救済の行政制度では、求められる立証程度は当然違うはず。まして、これは申請段階での医師の作業。『高度の蓋然性』を医師の仕事に持ち込むのは筋が違う」と話す。

メ モ
原爆症認定の申請 診断書や検査結果などのほか、けがや病気が原爆放射能に起因する、あるいは申請者の治癒能力が放射能の影響を受けていることに関する医師の意見書が必要。長崎被災協は「若い医師が増えるにつれ、被爆者の立場で意見書を書ける人が減りつつある」として、医師の啓発も今回の運動の目的に挙げる。