被爆地域拡大の行方
 =決断を迫る長崎= 6(完)

川の右岸は健康診断特例地域、左岸は未指定。「黒い雨はこの一帯で降った。なのに、この川で線引きされてしまった」と話す広島県湯来町「黒い雨の会」の牧野一見事務局長=同町の水内川

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被爆地域拡大の行方 =決断を迫る長崎= 6(完) 広島も見ている 健診特例地域の拡大を

2001/08/08 掲載

被爆地域拡大の行方
 =決断を迫る長崎= 6(完)

川の右岸は健康診断特例地域、左岸は未指定。「黒い雨はこの一帯で降った。なのに、この川で線引きされてしまった」と話す広島県湯来町「黒い雨の会」の牧野一見事務局長=同町の水内川

広島も見ている 健診特例地域の拡大を

「この町で黒い雨が降ったのは事実。ところが、その狭い町内を流れる川で指定と未指定を分けてしまった」

広島市の北西に接する佐伯郡湯来町は、市中心部からバスで一時間余りかかる温泉地。広島の被爆地域拡大を求める同町「黒い雨の会」の牧野一見事務局長が境界線の水内川を見ながら話す。

広島の地域指定は、原爆投下後に降った放射能を含むいわゆる黒い雨がカギを握っている。

現在、爆心から北へ十九キロ、幅十一キロのだ円の範囲が、被爆者が検診を受けられ被爆者健康手帳の交付対象となる「健康診断特例地域」。だが、黒い雨はより広範囲で降ったという研究報告が相次いだことから、県内各地の「黒い雨の会」が協力して、地域拡大を求めたものの、一九九〇年代初頭に運動はとん挫した。

湯来町は、水内川を境に広島市側のわずかな部分が特例地域、町の大部分は未指定だ。「川を境に雨がやむと思いますか。全く不合理だ」。牧野氏らは運動の再建を目指している。「長崎の官民一体の運動は参考になる。その結末にも期待している」

一方、広島市は被爆者の心的外傷後ストレス障害(PTSD)に関する初の調査を計画中。広島も、長崎を、そして国を見詰めている。

長崎の要求も、健康診断特例地域による拡大実現。だが、「放射線被害でなく、精神的影響を根拠とした場合、どうなるのか。たとえ地域拡大が実現しても、その運用は不透明」(山田拓民・長崎被災協事務局長)という懸念も聞かれる。

未指定地域の長崎市相川町で地域拡大を一日千秋の思いで待つ小岩秀秋さん(68)は、あの日、強烈なせん光を浴び、歯茎からの出血が一週間続いた。五十六年たった今も、被爆による健康不安は付きまとう。「健康診断特例地域並みの援護をしてほしい。単なる健康診断事業などお茶を濁すような対応では満足できない」と国に注文する。

伊藤一長長崎市長は、九日来崎する首相と厚労相が、“朗報”をもたらすことを望んでいる。「未指定地域住民は待ち続けてきた。小泉さんと坂口さんなら、きっとこたえてくれる」。市長はそう言う。