のどかで、柔らかで、華やかな春を表して「山笑う」という。昔、中国の画家が四季折々の山はこう描写すべきだと書いた文に由来するらしい。夏は「山滴(したた)る」、秋は「山粧(よそお)う」、冬は「山眠る」ように描くものだという▲そろそろ花見シーズンで、なるほど、どこからか春の笑い声が聞こえてくる。心弾む季節…のはずだが、列島を見渡せば、のどかでも華やかでもない山の景色に胸がざわつく。山林火災の知らせが絶えない▲住宅の被害が100棟を超えた岩手県大船渡市の山火事は「局地激甚災害」の指定が決まった。愛媛県今治市では火の手が送電線に迫って停電の恐れがあり、岡山市の山林でも延焼が食い止められていない▲落雷、野焼き、たき火、たばこの吸い殻…と、山火事は自然現象でも人為でも起きる。たびたびの発生はそれらが偶然にも重なったのかどうか▲気候変動で森林の湿度が下がり、少々の火種でも燃え広がりやすくなったともいわれる。私たちはこの先、高温、大雨の異常気象から逃れられないようだが、大規模な山火事までも“定番”となる未来は、願わくば避けたい▲春の季語に「焼山(やけやま)」があり、山菜などがよく育つよう野山を焼き払うことをいう。図らずも燃え広がり、人々を逃げ惑わせる“焼山”ならば山笑う春にそぐわない。(徹)
山火事たびたび
長崎新聞 2025/03/28 [09:45] 公開