遺品に父娘のプリクラ…長崎市長射殺から18年 親戚の写真家が記録残す作品集「事件を風化させたくない」

長崎新聞 2025/04/18 [12:00] 公開

様変わりしたJR長崎駅前を眺めながら「事件を風化させたくない」と話す安森さん=長崎市尾上町

様変わりしたJR長崎駅前を眺めながら「事件を風化させたくない」と話す安森さん=長崎市尾上町

  • 様変わりしたJR長崎駅前を眺めながら「事件を風化させたくない」と話す安森さん=長崎市尾上町
  • 安森さんが出版した写真集「向日葵」
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2007年、長崎市長選期間中に伊藤一長元市長=当時(61)=が暴力団幹部に射殺された事件から17日で18年を迎えた。伊藤さんの親戚で、プロ写真家の安森信さん(47)=山口県長門市=は昨年末、写真集「向日葵(ひまわり)」を出版。「事件を風化させたくない」と、伊藤さんが生前親しんだ長崎の人や街を訪ね歩き、作品にまとめた。

 伊藤さんは亡き父のいとこで、毎年顔を合わせる近しい間柄だった。大学時代に伊藤さん宅で下宿した父から「大勢の人をまとめながら、街のささいな悩みも吸い上げようとまめにメモを取るような人だった」と聞かされたことがある。親戚の集まりでは常に場の雰囲気を明るくした。大胆できめ細かい、尊敬する「おじさん」だった。

 事件を思い返すと今も胸が詰まる。出先で一報が入り、急いでテレビをつけると凄惨(せいさん)な事件現場が目に飛び込んできた。ガタガタと体が震え、かみしめた唇から血がにじんだ。「あの優しいおじさんが、なぜ」。写真集の中に黒い二つ折り財布を撮った1枚がある。伊藤さんが銃撃を受けた際に持っていた遺品。父娘で撮ったプリクラが貼られていた。ファインダー越しに涙があふれたのは初めてだった。

 写真集出版を決めたのは19年。13回忌を節目に長崎市が事件現場の献花台設置を終える際「記録に残さなければ」と決意した。自らの心の傷をえぐるような作業に葛藤を抱きつつ、こつこつと撮りためた。階段道を上る高齢者、ごみ収集日の街角…。作品には何げない光景も多い。「おじさんが守ってきた日常が、いかに大切なものかを伝えたかった」

 タイトル「向日葵」は伊藤さんが好きだった花。ヒマワリを目いっぱい大きく載せたページは、世間から忘れ去られることへの危機感を強く訴えかける。献花台に並ぶヒマワリが白く照らされている様子に、カメラのフラッシュが絶えず点滅していた事件現場の記憶が重なる。

 17日、事件現場となったJR長崎駅前を3年ぶりに訪れ、故人をしのんだ安森さん。今でもこの場所に立つと胸が苦しくなる。街並みは大きく変わった。それでも「事件のこと、おじさんのことを忘れないでほしい」。時折涙ぐみながら、安森さんはそう言った。