『これが私だから』家族の支え、陸上に熱中 生まれつき難聴の山口さん 日本デフ陸上「優勝目指す」

長崎新聞 2025/05/03 [11:05] 公開

家族に囲まれて笑顔を見せる京花さん(前列中央)=西彼長与町、山口さん宅

家族に囲まれて笑顔を見せる京花さん(前列中央)=西彼長与町、山口さん宅

  • 家族に囲まれて笑顔を見せる京花さん(前列中央)=西彼長与町、山口さん宅
  • 練習に励む山口さん=長崎市松山町
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晴天の下、汗を流しながら走り込みに励む純心中・純心女子高陸上部(長崎県)の山口京花さん(14)=中学3年=。生まれつき耳が聞こえにくい先天性難聴だが、家族の支えもあり、陸上に熱中する日々だ。5、6日に埼玉県で開催される聴覚障害者の陸上大会に出場する予定で「自己ベスト更新と優勝を目指して頑張りたい」と意気込む。

 新生児聴覚スクリーニング検査で異常が見つかり、生後1カ月の時に脳波の検査を受けた。医師から「聞こえていないかもしれない」と告げられた父祐一郎さん(50)と母昌代さん(49)は信じられなかった。

 3歳の時にCT検査を受け、聴力低下の原因となる「前庭水管拡大症」と診断された。特に右耳が聞こえづらく、聴力レベルは救急車のサイレンの音がやっと聞こえる程度。幼稚園に入るのを機に、補聴器を付けての生活が始まった。

 補聴器を付けていても、はっきり聞こえるわけではない。「分からない時は相手の口を見て判別する時がある」。通常は幼少期に耳から無意識に親の会話などが入り、言葉を覚えて話せるようになるが、難聴の身には難しかった。単語が分からず、うまく発音できないため、同年齢と比較して3年ほど言語の発達に遅れが見られた。

 小学校では、算数と国語、社会の授業は聴覚障害者専用のクラスで受けた。学校以外でも病院や言語聴覚士の元に通い、単語が書かれた「フラッシュカード」を使って学んだ。家族も京花さんのために、あらゆる工夫をした。家のテレビは全て字幕に。家具や電化製品には単語を書いた付箋を貼った。家族でたくさん会話をして「言葉のシャワー」を浴びせた。そうして少しずつ言葉を覚えていった。

 体を動かすことが好きで、陸上は小学3年生から始めた。短距離を得意種目とし、もっと上を目指したいと純心中の陸上部に入部。昨年11月には、日本デフジュニア・ユース陸上選手権大会に出場し、中学から始めた走り幅跳びで優勝した。昌代さんは「聴覚障害がありながらも、やりたいことを見つけることができてよかった」と温かく見守る。

 5、6日には埼玉県で開催される第5回日本デフジュニア・ユース陸上選手権大会に出場する予定。100メートルの自己ベスト13秒44を更新しての優勝を目標に掲げる。難聴は進行性で、ストレスや疲れが聴力に大きく影響する。それでも前を向いて走る。

 「これが私だから」