大きく目を見開いた鬼に立ち向かう武者の勇ましい姿から、男の子の初節句に祖父が贈る風習がある長崎県の五島伝統のバラモン凧(だこ)。色鮮やかで曲線がつくる独特な形、込められた願い-。バラモン凧作り名人を系譜に持つ、五島市富江町の平山絵美さん(44)はその継承者として「五島の文化を世界に広げたい」と夢を描く。
平山さんの工房は福江島の南端、同町丸子集落にある。築百年を超え、かつて祖父母や家族らと暮らした生家の周辺は緑豊かな山々に恵まれ、すぐそばの丸子海岸からは雄大な東シナ海が見渡せる。
骨組みに11本の竹ひごを使い、複雑な曲線をつくりながら組み上げるバラモン凧。平山さんは、福江島で数少なくなった凧の作り手、今村光洋さん(74)を師に、竹の伐採から加工、組み立て、絵付けといった一連の工程をこなす。
特に竹ひごは「軽量化や姿形につながる大切な素材」と平山さん。毎年11月ごろ、含水量が少なくなるという新月の日に、節が等間隔の竹を厳選して伐採。防虫のため10日ほど海水に浸した後、3カ月乾燥し、切り出した竹ひごは厚さ3ミリまで削る。作品が完成するまで約半年。手間と時間をかけた渾身(こんしん)の作品を求め、国内外から発注がある。
小学2年まで丸子集落で過ごした。その後、父親の転勤で県内外の小中高校を卒業し、福岡の短大に進学。夢だった米国留学も実現し順風満帆な人生を送っていた。
しかし2019年に姉が出産した女の子の赤ちゃんがすぐに亡くなった。「お金があっても、買えない大切なものがある」-。今までの人生観を見つめ直したいと、仕事を辞め、福岡から東京まで徒歩の旅に出た。出合った風景の中でも、海や山がある場所に心引かれる自分に気付き、「あれっ、丸子に全部あるじゃん」。
その後、沖縄県読谷村を訪れた際、無病息災を願う伝統工芸、シーサーを製作する工房に足を運んだ。陶工から「五島にシーサーのようなものはないの」と問われ、バラモン凧について話すと、貴重な文化だとして「残したほうがいいよ」と言われ、心に響いた。
22年に五島にUターンし、平山さんの親戚で名人だった故平山等さんの弟子だったという人と「奇跡的に出会い」、バラモン凧作りを継ぐと決めた。
旅先の恩人にお礼としてバラモン凧の柄をあしらった手描きの絵を送っていると、ちょうど五島列島が舞台のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」がスタート。バラモン凧の存在が知られるようになると、知人を通じて「購入したい」と声がかかり始め、今では全国から愛好家が工房を訪れる。
広がる交流が縁で、来年はインドで開かれる「国際たこ揚げ大会」にも参加する。「大切なのは生き方や、自分はどう在りたいかということ」と平山さん。「人が人を思う心が込められたバラモン凧を通じて、五島の文化や存在を世界に広めていきたい」と意欲を語る。
平山さんの工房は福江島の南端、同町丸子集落にある。築百年を超え、かつて祖父母や家族らと暮らした生家の周辺は緑豊かな山々に恵まれ、すぐそばの丸子海岸からは雄大な東シナ海が見渡せる。
骨組みに11本の竹ひごを使い、複雑な曲線をつくりながら組み上げるバラモン凧。平山さんは、福江島で数少なくなった凧の作り手、今村光洋さん(74)を師に、竹の伐採から加工、組み立て、絵付けといった一連の工程をこなす。
特に竹ひごは「軽量化や姿形につながる大切な素材」と平山さん。毎年11月ごろ、含水量が少なくなるという新月の日に、節が等間隔の竹を厳選して伐採。防虫のため10日ほど海水に浸した後、3カ月乾燥し、切り出した竹ひごは厚さ3ミリまで削る。作品が完成するまで約半年。手間と時間をかけた渾身(こんしん)の作品を求め、国内外から発注がある。
小学2年まで丸子集落で過ごした。その後、父親の転勤で県内外の小中高校を卒業し、福岡の短大に進学。夢だった米国留学も実現し順風満帆な人生を送っていた。
しかし2019年に姉が出産した女の子の赤ちゃんがすぐに亡くなった。「お金があっても、買えない大切なものがある」-。今までの人生観を見つめ直したいと、仕事を辞め、福岡から東京まで徒歩の旅に出た。出合った風景の中でも、海や山がある場所に心引かれる自分に気付き、「あれっ、丸子に全部あるじゃん」。
その後、沖縄県読谷村を訪れた際、無病息災を願う伝統工芸、シーサーを製作する工房に足を運んだ。陶工から「五島にシーサーのようなものはないの」と問われ、バラモン凧について話すと、貴重な文化だとして「残したほうがいいよ」と言われ、心に響いた。
22年に五島にUターンし、平山さんの親戚で名人だった故平山等さんの弟子だったという人と「奇跡的に出会い」、バラモン凧作りを継ぐと決めた。
旅先の恩人にお礼としてバラモン凧の柄をあしらった手描きの絵を送っていると、ちょうど五島列島が舞台のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」がスタート。バラモン凧の存在が知られるようになると、知人を通じて「購入したい」と声がかかり始め、今では全国から愛好家が工房を訪れる。
広がる交流が縁で、来年はインドで開かれる「国際たこ揚げ大会」にも参加する。「大切なのは生き方や、自分はどう在りたいかということ」と平山さん。「人が人を思う心が込められたバラモン凧を通じて、五島の文化や存在を世界に広めていきたい」と意欲を語る。