入門してすぐの正月、彼からの年賀状には自作の詰め将棋の図面があった。47手詰めの大長編。「これじゃ年賀状じゃなくって挑戦状だよ、って」▲愛弟子の少年時代を懐かしむ口調が柔らかく弾む。年明けから本紙に寄稿をいただいている将棋の深浦康市九段=佐世保市出身=の門下から4月、佐々木大地七段=対馬市出身=に続く2人目のプロ棋士が誕生する。札幌市出身の齊藤優希さん▲ネット将棋で知り合った佐世保市の愛棋家、松山秀樹さんの紹介で深浦門下に入り、2010年から棋士養成機関の「奨励会」でプロを目指してきた▲だが、棋士への道は長くて険しい。「才気煥発(かんぱつ)」の形容がよく似合った少年は昨年、28歳になった。もう一歩で棋士の正式資格「四段」に手が届くこの数年は盤上のライバルに加え、奨励会の年齢制限とも戦う日々が続いた▲「負け越したら退会」の重圧を5度しのいで迎えた今季の三段リーグ。初戦から16連勝を飾り、2局を残して1位通過を決めた。何か吹っ切れたんでしょうね、と師匠▲地方からプロを目指す子の力になりたい-。深浦九段の持論だ。「でも齊藤が四段になれなかったら弟子をとるのはやめようと思っていました」。打ち明け話に安堵(あんど)がにじむ。一門の物語に新しいページが加わる。うれしい春だ。(智)
新四段誕生へ
長崎新聞 2025/02/24 [09:48] 公開