常磐樹を守りたい

長崎新聞 2024/09/16 [10:40] 公開

芭蕉は40歳を過ぎて「芭蕉翁(おう)」と名乗った。〈衰ひや歯に食ひあてし海苔(のり)の砂〉。ノリを頬張ると、混じっていた砂をかんでしまって痛みが走った-と、衰えを嘆く一句を詠んだのは48歳の時とされる▲40歳を「翁(おきな)」と称した江戸の昔と比べ、とてつもない長寿の時代を私たちは生きている。昨年の日本人の平均寿命は女性が87・14歳、男性が81・09歳で3年ぶりに延びた▲四季を通して葉の青々とした樹木を「常磐樹(ときわぎ)」という。松がそうであるように、長寿のしるしにもなっている。葉が青々とした歳月、つまり、介護を受けたり寝たきりになったりせずに日常生活を送れる「健康寿命」をいかに延ばすか、いま問われている▲県のまとめでは、2013年度から23年度にかけて、健康寿命は女性が2歳以上延びて75・42歳に、男性が3歳以上延びて72・29歳になった。多くの人が健康づくりに目を向け、実行した成果だろう▲その一方で、常磐樹の森では難問が絶えない。老老介護があり、高齢者への虐待問題がある。1人暮らしの高齢者が増えている。介護に関わる人が不足し、介護サービスを受けるべき人が受けられない…▲きょうは「敬老の日」。長寿にして健康であれば喜ばしいが、「超」の付く高齢社会の影はますます濃く、深い。常磐樹を守りたい。(徹)