日本第一の大天狗

長崎新聞 2021/09/24 [11:00] 公開

 平安末期の後白河法皇は、時の天皇を後見しながら政治の実権を握る院政を30年以上続けた。源平の争いを巧みに利用した権謀術数の持ち主でもあった▲法皇は権力維持のため、後ろ盾となる武士を平清盛から木曽義仲、源義経、源頼朝と目まぐるしく変えた。利用価値がなくなると容赦なく見切り、サッと乗り換えた▲法皇の老獪(ろうかい)な処世術に業を煮やした頼朝が「法皇さまこそ日本第一の大天狗(てんぐ)」と憤ったのは、よく知られた話▲思えば800年前の源平時代をほうふつとする現代の自民党総裁選だ。「奥の院」に居座る党内の実力者が、新型コロナウイルス対応の迷走で国民の信をなくした現首相をあっさり見切り、意のままに動いてくれる「次の人物」を後釜に据えようと策動しているように見える▲だが多くの国民は「院政」など望んではいまい。自らの確固たる意志を持ち、異論もしっかり受け止め、誠実に説明を尽くすリーダーの登場を待っているのではないか▲まずは勝利が最優先とはいえ、総裁選の候補者が、奥でピカピカ目を光らせる「大天狗さま」のご機嫌をうかがい、忖度(そんたく)しているようでは先が思いやられる。「1強」の弊害がこんな所にも現れているようだが、平家物語には「おごれる人も久しからず」という誰でも知っている言葉がある。(潤)