家族に愛され、地域に支えられ…ダウン症の峰さん 笑顔の門出

2021/01/11 [12:00] 公開

障害者就労支援施設で箱折り作業に取り組む史子さん(左)と母の夏代さん=長崎市田中町、Nagasaki Job Port

 11日は「成人の日」。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、多くの自治体で式典が取りやめになる中、県内では約1万2900人の新成人が大人への一歩を踏み出す。ダウン症のある長崎市の峰史子さん(20)は、家族に愛され、地域に支えられ、人生の門出を迎えた。母、夏代さん(59)は感慨深げに喜びをかみしめる。「この子のおかげでいろんな縁をもらった。本当にうれしい」

 夏代さんは、生まれたばかりの娘の顔を見て2人の兄とは「違う」と感じた。ダウン症かもしれない。不安に押しつぶされ、授乳室に行くのさえつらかった。世間からどんな風に見られるのだろうか、家族に迷惑をかけてしまう、私のせい、きっと夢だ-。
 1カ月後の検診で告知を受けた。娘への愛情は薄れはしない。でも素直に障害を受け入れられなかった。泣き崩れたその日の夜。夫の言葉に救われた。「うちに天使の生まれたとさ。大丈夫」。将来を悲観して泣くのは、この日を最後にやめた。
 娘への冷たい視線や心無い言葉に家族で傷ついた経験もある。そんなときはダウン症の家族らでつくる「バンビの会」に参加。悲しみや不安を吐き出すことで心を保った。史子さんは2歳で歩き、言葉を発したのは3歳。成長はゆっくりだけれども、できないことを嘆くのではなく、できたことを喜んだ。史子さんの笑顔は周りを変えていった。
 地域にも支えられた。小学校は兄たちが通った市立愛宕小に入学。特別支援学級を新設してもらい、校長自らが教室の壁を明るく塗り直して歓迎してくれた。
 夏代さんには忘れられないエピソードがある。5年生の時の運動会。走るのが苦手な史子さんはそれまで、学級対抗リレーに参加してもわずかな距離を走るだけだった。でもこの年、子どもたちが話し合い、史子さんもみんなと同じ距離を走ることに。どんなに遅くたっていい。勝敗を超えた優しさがそこにあった。娘の周りには「幸せな社会」が広がっていた。
 中学、高校は長崎大付属特別支援学校に進学。卒業後は障害者就労支援施設に通う。「臨機応変」は難しいが「こつこつ」は得意で作業も丁寧だ。職員や友人らと楽しく過ごす日々。「行きたくない」と言い出す日は、まだ1日もない。
 「大人の仲間入り」を家族も祝福する。次男(26)は「史子と飲む」とチョコレート味のお酒をプレゼント。長男(27)は大みそかに、史子さんが好きなアイドルグループ「嵐」の生配信ライブを視聴できるよう環境を整えてくれた。11日には夏代さんが成人の時の振り袖を着て、髪もきれいに整え、家族写真を撮る予定。着飾った娘の姿を思い、うれしさが込み上げ、夏代さんの口から漏れた。「娘を産んでよかった」
 取材中、夏代さんが席を外した時、史子さんにいくつかの質問をした。恥ずかしがり、はにかむばかりだったが、一つだけ、しっかりと答えてくれた。
 「家族はみんな仲良しですか」
 「うん。大好き」
 そう言うと、また恥ずかしがり、両手で顔を覆った。