
【略歴】熊本県出身。東京HIV訴訟、医療過誤訴訟、所沢テレビ朝日ダイオキシン訴訟などを担当。2001年からカネミ油症仮払金返還調停の被害者側代理人。著書「薬害エイズはいま」(共著)など。55歳。保田・河内法律事務所(東京都文京区)。
〈カネミ油症被害者の救済策を検討する与党プロジェクトチーム(PT)は、年度内に仮払金返還問題などの救済策をまとめる意向。だが、本人死亡後の債務相続免除案について自公で意見が割れている。被害者からは全員返還免除を望む声が強い。解決の方向について、被害者を支援する保田行雄弁護士に聞いた〉
-無資力なら返還を免除する法案骨子(自民党案)について。
分割払い者の大半は免除されないだろう。十年前の調停時は若くて収入が低かったため履行延期になった人が中堅的収入を得る時期となり、救済対象外となるケースが出る。さらに、仮払金を医療や生活のために使った親たちは、子どもに債務相続させたくないという思いが強い。そういう状況があり、自民党案での全体解決は難しい。
-そこで公明党が相続免除案を出してきた。
仮払金問題が、一定の年限ですべて解決する点で評価できる。債務者五百四人のうち自民党案で免除されない三-四割、百数十人の債務約六億円について、公明党案は本人が払えるだけ払い、亡くなった時点で残った債務は相続しないという内容。
油症被害者にその損害を慰謝するために給付された仮払金は、財産権の填(てん)補としての性格はない。慰謝料の面で一身専属的な性格があり、本人死亡時に債務を免除する司法修習生の「修習資金」貸与の例などと共通性がある。
-債務を相続させて相続人が無資力なら免除するという案について。
相続人に、無資力基準の幅を膨らませて当てはめる自公の折衷案的なものだ。ますます複雑な法律になる。免除基準をかなりの期間残すわけで、その弊害は徴収する側にもあるのでは。
-国の財務的観点から考えるとどうか。
現在の債務者が望む返還の一括免除が財務的にも一番いい。自民党案で免除されない限られた人のために相続免除の運用を続けて膨大な事務量を長期間残すより、一括免除で終わらせた方が早い。文句を言う人などいない。財務当局はいま一度、全面免除を再考すべきだ。
-根本的問題は。
加害企業のカネミ倉庫が、裁判で確定または和解で決まった被害者への賠償金を未払いのまま放置し、社会的に許してきたことこそ最大のモラルハザード。被害者への公的医療支援がないため、同社が細々と医療費の一部を払う今の仕組みを失うわけにいかず、被害者は同社から債権回収できない。公的医療支援がないことが、油症問題の解決を阻んでいる最大の要因。そのことをPTはよく理解して、切り込んでもらいたい。=おわり=
2007年1月28日長崎新聞掲載