「決めたら迷いなく完遂」 佐世保高1同級生殺害事件から10年 元少女の特性、欲求に影響<傷跡・中>

長崎新聞 2024/08/01 [12:45] 公開

元少女の心は深い闇の底のよう(写真はイメージ)

元少女の心は深い闇の底のよう(写真はイメージ)

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長崎県佐世保市の高1女子同級生殺害事件で、長崎家裁は精神鑑定結果などを踏まえ、加害少女(25)を重度の自閉症スペクトラム障害(ASD)と認定した。ASDが非行に直結したわけではないが、障害のある関係者らに与えた影響は計り知れない。
 「当時から変なことを急に話し出す子だった。発言が二転三転したり」。佐世保市の女性(26)は小学4年時、校外での野外学習で、同じ小学校に通っていた元少女(当時小学3年)と一緒の班になった。そのときの印象が強く残っている。
 長崎家裁は2015年7月、「刑罰による抑止は効果がない」と判断し、少女を医療(第3種)少年院送致とする保護処分を決定した。他者に攻撃的な傾向がある素行障害も併発し、家裁決定要旨では「不安や恐怖の感情が弱く、決めたことは迷いなく完遂する性格」などと指摘している。
 非行には環境的要因も影響していると言及したが、「ASDをはじめとした少女の特性が、殺人欲求の形成に大きく影響している」とした。
 活水女子大の永田耕司名誉教授(精神保健)は元少女の行動について「ASDは人間関係をゼロか百かと考えがち。中学3年時に父親をバットで殴打したのも敵と見なした行動だ」とASDの特徴を交えて分析。
 「基本的に発達障害は病気ではないので治らない。人を解剖したいという彼女の心に潜む殺人願望は今も残っているだろう。幼少期に解剖など何らかの体験で脳が快感を覚えた。衝動を理性でコントロールできればいいが、何らかのきっかけで再び犯行に及ぶのは否定できない」と矯正教育の難しさを説明する。
 発達障害の関係者は、ASDなど発達障害の診断名が事件報道で流れるたびに不安な思いを募らせる。月1回、佐世保地区で自閉症の子どもを持つ親たちによる集まりに参加する女性は、自閉症の息子に10年前の事件を伝えていない。伝えることによってパニックが起こる可能性を恐れているからだ。
 県自閉症協会の川下昭子副会長は「発達障害を持つ人たちがみんな悪いことをするように感じられる」と苦しみを吐露する。自閉症の当事者にとって環境を整えるのが大事だと強調し、事件にこう思いをはせる。「加害少女は事件当時、1人暮らし。果たして彼女にとっていい環境だったのだろうか」