故人を最高の姿に…離島の納棺師が磨くエンゼルケア 特殊メークも習得、最期の時間に思い出を 長崎

長崎新聞 2025/01/21 [12:30] 公開

「故人や遺族に寄り添いたい」と、エンゼルケアの研究を重ねる浦さん=五島市上大津町、五島式典社

「故人や遺族に寄り添いたい」と、エンゼルケアの研究を重ねる浦さん=五島市上大津町、五島式典社

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人生の最期まで美しく-。亡くなった人の身体を清潔にし、生前の姿に近づけるために行う死後の処置、エンゼルケア。長崎県五島市上大津町の五島式典社常務取締役の浦善範さん(44)は、故人の尊厳や遺族の心に配慮しようと技術を独学で習得した。「人生の最期の瞬間まで、故人と遺族に寄り添いたい」と願う。

 エンゼルケアは遺体の保存や衛生管理を施しながら、遺族の心のケアも担う重要な役割を果たす。故人の尊厳を守り、遺族が故人と向き合える環境を整える「グリーフケア」として、看護現場や葬儀場などで広がっている。

 ケアに取り組んだきっかけは、ある遺族の何げない一言だった。「本土で生きているような遺体の納棺を見た」という話を聞き、それまで自信を持っていた納棺技術に疑問が生じ、その言葉が心の片隅に残り続けた。

 ある夜、身寄りがなく、儀式も祭壇もない、火葬を待つ故人と二人きりになった葬儀場。故人の開いたままの目と口を見つめながら「浦君、俺で練習してみろ」という声が聞こえた気がした。その時から「葬儀に関わる者として、故人を最高の姿で送りたい」と技術を磨き始めた。

 2018年にケアを始めて間もなく、入れ歯を着けられずに口元が陥没したままの故人の遺族から相談を受けた。技術を駆使し、入れ歯を装着すると、遺族から歓声が上がった。故人の最期の姿がきれいに整い、遺族が喜ぶのを目の当たりにし、ケアの重要性を確信した。

 肩書は「おもかげ復元納棺師」。年間150人以上をケアする。故人への敬意を込め、高級化粧品や高品質の熊野筆を使用し、30種以上の口紅を用意。清拭(せいしき)、整髪、ひげそり、閉眼・閉口、死臭・変色対策を丁寧に施す。特殊メーク技術も独学で習得。損傷の激しい遺体にも最善を尽くし、遺族に安らかな最期の姿を見せることを心がけている。

 ケアの際に特に気を配るのは、3歳前後の幼児の反応。恐怖心から故人との距離が生まれないように注意を払う。「ケアを始めてから、遺族の反応が明るくなり葬儀の雰囲気が一変した」

 一方、新型コロナウイルス禍で広まった家族葬で「誰も見ないから、火葬だけでよい」という風潮も生まれ、故人を大切にする意識の希薄化に危機感を抱く。

 孤独死や家族不在の故人にもケアを施し、火葬に立ち合う時もある。「こんなにきれいなのに、誰にも見られず火葬するのはもったいないな」。そう思いながら火葬のスイッチを押すこともある。

 近年、知人の看護師らがケアに関心を示し、アドバイスを求められることが増えた。「ケアの大切さを知ってほしい」と培った技術を本として残すことを思い描く。「故人と遺族に対するケアの質が向上し、最期の時間をより良い思い出で締めくくってほしい」