今年の立夏は5日で、暦の上ではこの日から夏になる。今の時季、春と夏の境目に咲くフジには「二(に)季草(きぐさ)」の異名があるという▲〈いづかたににほひますらむ藤の花春と夏との岸をへだてて〉康資王母(やすすけおうのはは)。こちら側の春の岸と、あちら側の夏の岸と、藤の花はどちらが色美しく咲くのでしょうか。川の両岸にフジの花が優雅に枝垂(しだ)れるさまを詠んでいる▲春であり、夏でもあり、季節をまたぐようにふらふらと、風に揺られてフジは咲く。私たちもまた、春と夏の境目をまたいで過ごす頃だが、近ごろ知った不穏な一語には、季節感も何もない。春夏秋冬の日本の四季が「二季」になるという見方があるらしい▲今年がそうだが、冬が去ったと思ったら、春の陽気を飛び越えて、いつの間にか暑さ対策が必要になっている。思えば、昨年も「秋深し」の風情を感じないまま冬を迎えた覚えがある▲日本周辺の海面の温度が、世界でも飛び抜けて上昇していることが一因らしい。春と夏を行き来する「二季草」には趣があるが、春と秋が失われる「二季化」は先が案じられる▲〈行く春のうしろを見せる藤の花〉一茶。きょうから4連休、足を運んだ公園や行楽地で晩春を感じる頃でもある。去りゆく春の背中を見送る、そんな営みが二季化で“消滅”するのは忍びない。(徹)
「二季」化
長崎新聞 2025/05/03 [10:01] 公開