新幹線かもめ車窓から「5秒の桜」 長崎・東彼杵トンネル抜け700本 住民らトイレを整備「癒やせる場所に」

2024/03/30 [10:00] 公開

桜園に簡易トイレ(左)を設置した住民有志。山を貫いているのが西九州新幹線の三ノ瀬トンネル=東彼杵町坂本郷

 長崎県東彼東彼杵町坂本郷の斜面に約700本の桜園がある。西九州新幹線に乗ると、トンネルを抜けた刹那に車窓から見えるため、地元の人は「5秒の桜」と呼ぶ。植樹を主導した前自治会長、川添要介さん(75)は「行き交う人が眺めて、立ち寄って、癒やせる場所になれば」。そんな願いを込め、自治会は今月、園内にトイレを設けた。

除草や看板設置の作業をする住民

 2008年末、地域の飲み会で、町役場を定年退職する直前だった川添さんが切り出した。「地域にお礼がしたい」。宴は盛り上がり、耕作放棄地に桜を植えることに。「新幹線が通れば名所になるかも」と皆が期待を膨らませた。
 坂本郷は特産そのぎ茶の畑が連なり、同年度の「長崎県のだんだん畑十選」に選定された。だが、この場所は急傾斜のため長年放置され荒れていた。川添さんは翌春、桜500本の苗木を自治会に寄贈し、住民総出で植えた。18年には新幹線施工業者の寄付で200本を追加した。
 同町は沿線6市町で唯一、新幹線の駅がない。線路の多くはトンネルの中だ。坂本郷を走る「かもめ」が姿を見せるのは俵坂、三ノ瀬両トンネル間の約390メートル、時間にして、たったの5秒間。「『車内からちらっと見えた』という人はいるが、『花が見えた』と言う人はまだ」と川添さんは苦笑いする。
 当初高さ約1.5メートルだったのが今は5~6メートルに成長。22年9月の新幹線開業後、メディアで取り上げられ、昨年春は県内外から多くの見物客が訪れた。2年目に向け自治会は簡易トイレを整備。27日も有志が集まり、草を刈り、看板を設置した。
 満開は4月初旬になりそう。川添さんは、桜を一瞬見かけた乗客がいずれ訪ねてくるのを楽しみにしている。そして「仲間と一緒にいつかは『千本桜』にしたいね」。