「かっぱ絵」に光を 長崎学研究所学芸員の入江さん “推し”の漫画家・清水崑の魅力発信

2023/06/29 [12:11] 公開

「清水は今も変わらない人間の普遍性をかっぱに落とし込んでいる」と語る入江さん

 「かっぱ絵」で一世を風靡(ふうび)し、かつては作品がテレビCMにも起用されるほど注目を集めた長崎市出身の漫画家、清水崑(1912~74年)。市は生誕110年の昨年から再び光を当てようと、作品のデジタル化や企画展の開催に取り組む。清水作品の魅力とは。ファンを自認する市長崎学研究所の入江清佳学芸員(35)に聞いた。

 -清水崑展示館(長崎市中小島1丁目)では6月25日まで、代表作「かっぱ川太郎」の企画展を開催した。川太郎はなぜ愛される。
 かっぱ川太郎は、清水が1951年に小学生朝日新聞で連載した子ども向け漫画。元気いっぱいに遊ぶ主人公の川太郎と、両親や友達たちとの日常を描き、NHKが54~56年にアニメ化した。それまで怖い妖怪だったかっぱのイメージ。清水は、かわいらしくおちゃめでドジな部分など、子どものような無邪気さを描き、親しみやすく刷新した。

両親と歩く川太郎(中央)。漫画のワンシーン(清水崑展示館蔵)

 -清水作品の面白さは。
 清水は、川太郎以外にもさまざまなかっぱを描いており、今も変わらない男女の関係など人間の普遍性をかっぱに落とし込んでいる。子ども向けの川太郎や大人向けの「かっぱ天国」、新聞の挿絵など、場面や対象の読者によって、かっぱのイラストを幅広く使い分けている。
 清水は、川端康成や遠藤周作など当時の文化人との付き合いがあり、堅苦しくなくてひょうひょうとした性格。新聞の政治漫画も手がけ、吉田茂をちゃめっ気たっぷりに描くなど、当時の為政者を面白おかしくイラストに落とし込むのがうまい。ジャーナリストとしても一流だ。現代は、手塚治虫からの流れをくむ「鬼滅の刃」などのストーリー漫画が主流。それとは対極にある1こまで内容を伝える政治漫画を描いてきた清水が評価されていないのは惜しい。

 -昨年から清水作品のデジタルアーカイブ化に乗り出しているが、今後の活用については。
 昨年度末までに約2300点をデジタルカメラで撮影しデータ化した。今後も順次行っていく。展示館での企画展で見せたり、近現代の政治史研究に生かしたりする。歴史の教科書で清水の風刺画が使われるようになれば。

【略歴】いりえ・さやか 西彼長与町出身。長崎純心大大学院人間文化研究科卒。専攻は日本史。2011年に学芸員として長崎市役所入庁。16年から現職。