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核抑止に向き合う 長崎から問う被爆国の針路・6 【非核兵器地帯】 「核なき北東アジア」提唱を

2023/08/05 掲載

 核攻撃を受けた地域では人口の25~35%前後が死亡し、1年以内の死者は数百万人に上る。さらに放射線や放射性降下物によるがんで1年以上経過した後に亡くなる人も、数十万人に上る-。
 日本や朝鮮半島を含む北東アジア地域で核兵器が実際に使われたら、どれくらいの人が亡くなるのか-。長崎大核兵器廃絶研究センター(RECNA=レクナ)が3月末に公表したシミュレーション結果は、核の脅威を浮き彫りにした。
 ▽米国と北朝鮮が互いに核攻撃し中国も参戦▽ロシアが核攻撃し米国が核で応戦▽台湾有事から米中核戦争に発展-など5事例で実施。日本海に展開する米艦船や在日米軍基地が攻撃を受ける事態も含まれ、放射性降下物は東南アジアなどまで及ぶ被害を想定した。
 レクナが米韓のシンクタンクと2021年度から3カ年で進める共同研究の一環。北東アジアでの核兵器使用リスク削減をテーマにする。鈴木達治郎副センター長は「誤解やコミュニケーション不足による核兵器使用は起こり得る。1発でも使われれば、甚大な被害は避けられない」と提起。「世界の指導者は核の使用リスクを直視し、核抑止に頼る安全保障の在り方を見直してもらいたい」と研究の狙いを語る。
 解決の糸口としてレクナが提唱するのが北東アジア非核兵器地帯。日韓と北朝鮮を非核兵器地帯とし、この3カ国に米中ロの3カ国が核攻撃や威嚇をしない「スリー・プラス・スリー」案を基本としている。
 特定地域の国々が条約を結び、核兵器の製造や使用などを禁じる非核兵器地帯。締約国への核攻撃や威嚇を禁じる議定書もあり、核保有国に署名・批准を求める。中南米、南太平洋、東南アジア、中央アジア、アフリカの5地域で条約が結ばれている。
 長崎市は非核兵器地帯の創設を日本政府に要望。だが政府は構想が「現実的」なものになるには、▽核保有国を含む全ての関係国の同意がある▽適切な査察・検証を伴う-といった条件が満たされる必要があるとして慎重姿勢を崩さない。
 長崎大多文化社会学部の西田充教授(軍備管理・軍縮・不拡散)は「中国やロシア、北朝鮮が非核化すれば、日本の安全保障上プラスとなり、結果的に米国の『核の傘』は必要なくなる」と指摘。「スリー・プラス・スリー案では不十分だと捉えるにせよ、日本は『核兵器のない世界』実現までの中期的なビジョンとして、地域の中国や北朝鮮の非核化を含む『核兵器のない北東アジア』を提唱すべき」と意義を強調する。