被爆者と知って話しかけてきたNGO関係者と雑談する宮田さん(左)=ウィーン、オーストリアセンター

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確かな一歩 核禁会議を終えて・上 「存在感」被爆者の声に説得力

2022/07/06 掲載

被爆者と知って話しかけてきたNGO関係者と雑談する宮田さん(左)=ウィーン、オーストリアセンター

 オーストリアで6月に開催された核兵器禁止条約の第1回締約国会議は、「核なき世界」の実現へ即時行動を呼びかける「ウィーン宣言」や「ウィーン行動計画」を採択した。ロシアのウクライナ侵攻で核使用の懸念が高まる中、長崎から参加した被爆者らの目に会議はどう映ったのか。核廃絶に向けた一歩となり得るのか-。会議の成果や課題を検証する。
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 6月21日、ウィーン。議場には締約国やオブザーバー参加国計83カ国・地域の代表者が集まり、熱気を放っていた。オーストリアのクメント議長から指名された各国の担当者が声明を読み上げていく。
 雲仙市の被爆者、宮田隆さん(82)は傍聴席で、発言者が映し出された巨大スクリーンを見つめた。ヘッドホンを付け、時折目を閉じながら聞き入る。「雰囲気がいいね。(世界の)勢いを感じる」。確かな手応えがあった。
 21日から3日間開催された締約国会議。日本から参加した被爆者や広島、長崎の両市長がスピーチし、戦争被爆国の思いを発信した。渡航した被爆者は一桁にとどまったが、存在感は際立っていた。20日にあった「核兵器の非人道性に関する国際会議」でも長崎原爆の被爆者が核兵器廃絶を訴え、議場は拍手の渦に。休憩時間などに感想を伝えに来る参加者もいたほどだ。
 宮田さんに声をかけたベルギーの非政府組織(NGO)に所属するシンブソン・ミンギーナさん(39)は「被爆者が伝えてくれたことはどんなデータよりも説得力があり、胸に迫ってくる」「彼らの声はいずれ聞けなくなる。だからこそ、次の世代にも原爆の惨禍を伝えて、平和な未来を目指さなければならない」と言葉に力を込めた。
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 核保有国や「核の傘」の下にある日本、韓国などが参加せず、実効性が疑問視される同条約だが、北大西洋条約機構(NATO)加盟国のドイツ、ノルウェーなどがオブザーバー参加。核廃絶を願う多くの若者がウィーンに集結した。ロシア危機への反動から、核廃絶への新たなうねりが生まれつつある。
 ノルウェーの代表者は長崎市の田上富久市長と面会した際、自国が参加した背景について「若者の活動があった」と紹介。会議のスピーチでも各国が若い世代への期待感を示していた。
 全国の高校生平和大使を代表して渡航した神浦はるさん(17)=青雲高3年=は、各国で核廃絶運動を続ける若者らと交流し勇気をもらい、連帯を感じた。一方で問題意識も芽生えた。他国の同世代はジェンダーや差別、環境問題などと核問題を絡めて運動に広がりを持たせている。「私たちはまだ何も知らない。もっと、もっと学ばないと」。神浦さんは少し焦ったように言った。
 「核なき世界」に向けた新たな胎動。これからの活動を担う日本の若い世代の力もまた、試される。