米大統領 広島へ 長崎の視線 中

「停滞する核廃絶の議論の突破口にすべき」と語る鈴木さん=長崎市文教町

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米大統領 広島へ 長崎の視線 中 長崎大核兵器廃絶研究センター長 鈴木達治郎さん(65) 価値観転換こそ真の意義

2016/05/13 掲載

米大統領 広島へ 長崎の視線 中

「停滞する核廃絶の議論の突破口にすべき」と語る鈴木さん=長崎市文教町

長崎大核兵器廃絶研究センター長 鈴木達治郎さん(65) 価値観転換こそ真の意義

 昨年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議は核保有国と非保有国の対立が際立ち、最終文書を採択できずに決裂。核兵器廃絶へ向けた情勢は行き詰まっている。オバマ米大統領の広島訪問はそれだけでも「歴史的」といえるが、こうした現状にパラダイムシフト(価値観の革命的転換)をもたらす可能性があり、そこに真の意義がある。

 大統領は就任当初の2009年4月、チェコ・プラハの演説で「核なき世界」を目指すと表明した。しかし、核兵器の近代化に取り組むなど、米国は核軍縮の動きに逆行している。スイス・ジュネーブで現在開かれている核軍縮の国連作業部会に参加しておらず、核兵器禁止条約を目指す動きにも反対している。

 任期満了が来年1月に迫る中、大統領はプラハ演説に見合う取り組みができていない状況に、じくじたる思いを抱いていたはず。そこで、核被害の象徴的な場所として広島を選び、核廃絶を訴えることにしたのだろう。

 今回の訪問は、他の核保有国首脳の訪問へつながる可能性がある。昨年11月に長崎であった科学者の「パグウォッシュ会議世界大会」に参加したロシア政府高官は、被爆者の証言や被爆遺構に「ものすごい衝撃」と感銘を受けていた。各国首脳も被爆地を訪れれば、立場を超えて一人の人間として感じるものがあるはずだ。

 気がかりなのは、今回の訪問を「日米同盟アピールの好機」と位置付ける報道があることだ。日本政府がそうしたメッセージを発しているのなら大きな間違い。グローバルな核廃絶に向けた訪問であり、そのような見解は意義を薄めてしまう恐れがある。