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70年の節目 被爆者アンケート 4 反戦の訴え 圧倒的

2015/01/20 掲載

反戦の訴え 圧倒的

被爆者は将来にどんな不安を抱き、子や孫の世代に何を伝えたいと思っているのか-。被爆70年に合わせ、長崎新聞社が県内と米国の被爆者団体などの協力を得て昨年9~12月に実施した被爆者アンケート(回答者388人)は、1日付で「核兵器廃絶は可能か」など選択式6問の傾向を紹介。9日付では記述式設問「被爆して一番つらかったと思うことはなんですか」を特集し、選択式設問のクロス集計も報告した。今回は、記述式の残り3問、▽被爆者や戦争体験者が減っていく中での不安▽隣国への日本政府の対応▽次世代に伝えたいこと-についてまとめた。文中の年齢は1日現在。

【次世代に伝えたいこと】 ささいなことも記録を/継承願う声 強く

被爆者数は20万人を割り、平均年齢は80歳に達しようとしている。被爆者が体験を直接語り継ぐことのできる最後の節目とも言われる被爆70年。「今、次世代にどんなことを伝えたいと思っていますか」という設問で、圧倒的に多かったのは「戦争を二度と繰り返してはならない」というストレートな反戦のメッセージだった。
「悲惨な戦争と原爆で、街中は廃虚と化した。二度と戦争はあってはならないと伝承し、風化させないでほしい」(72歳男性)、「二度と戦争をしてはいけない。平和憲法は守るべき」(74歳男性)、「戦争の悲惨さ、愚かさ。人間が起こすのだから人間しか止めきれない。若者に世界と交流を図ってもらい、どこの国の人とも手をつなげる体験をしてもらいたい」(70歳男性)、「平和憲法を守り、戦争をしない、戦争で殺されない、殺さないを守ってほしい」(76歳女性)、「原爆というより、戦争が嫌だ」(84歳女性)-。
また、「核兵器は絶対保有してはいけないことを伝える」(71歳女性)など、核兵器廃絶への願いも多かった。戦争反対と同じく、自身の体験に根差した訴えがほとんど。「核兵器廃絶を被爆国民として力強く呼び掛けることを第一に考えている。日本人が先頭に立ち運動していくことを伝えたい」(81歳男性)など、唯一の戦争被爆国の日本人に核兵器廃絶にむけた主導的な働きを求める意見もあった。
被爆体験の記録や継承を願う声も強く、これに関連してマスコミへの期待を込めた人もいた。「もっと早くアンケートを実施してほしかった。体験者が少なくなっているので遅すぎたのでは。記憶が確かな時にしてほしかった」(85歳女性)、「あと10年もしたら被爆者は存在しなくなると思われるので、どんなささいなことでも記録し、当時の状況を知らせるべきだ。ぜひマスコミにお願いしたい」(74歳男性)、「長崎新聞の被爆ノートはいまだに900人程度。被爆体験者を掘り起こしてほしいし、出版もしてほしい」(69歳男性)、「とにかく体験者と時間の許す限り話をしてほしい」(71歳女性)-。被爆者自身が「被爆者の高齢化と減少」という現状を踏まえ、次世代やマスコミに対し、もっと主体的に被爆の実相、戦争の現実を知る努力をしてほしいと願う声と受け止められる。

【不安に思うこと】 再び戦争への道たどるのでは/記憶の風化、国の動向懸念

戦争の悲惨さや恐ろしさが忘れ去られるのではないか-。「被爆者や戦争体験者が減っていく中、どういったことを不安に思いますか」との設問は、記憶の風化で再び戦争への道をたどるのではと危機感を表す意見が目立った。同時に継承への焦りもにじむ。
原爆投下により、街は一瞬で廃虚と化し、多くの命が失われた。運よく生き延びても、差別や貧困、後遺症などで苦しんだ被爆者たちは少なくない。子や孫に同じつらい思いをさせないようにと声を上げてきた人もいるが、高齢化による体力低下が、それを難しくしている。
70代までは小中高校で被爆体験を話してきたという85歳の男性は、以前は語れていた「臨場感ある話」が現在は「できなくなりました」とつづった。次第に訴えの声が小さくなり「被爆者の心からの思いや願いが薄らいでいく」(84歳女性)と嘆きにも似た記述もあった。
さらに「被爆体験の風化により、集団的自衛権行使がエスカレートして過去の戦争推進論者の台頭が心配」(75歳男性)、「被爆者の思いや戦争のむごさ、無意味さを全く知らない政治家が国を間違った方向に導こうとしている」(73歳男性)などの意見も。特定秘密保護法や集団的自衛権の行使容認など安倍政権の動きも、多くの被爆者の不安をかき立てている。
待ったなしの高齢化に、新たな国の動き。それでもこれらを乗り越えるため、体験を残さねば、との思いに行き着くようだ。
「体験を語り継ぐ人の養成が必要」(88歳女性)、「当時の痛みや傷のひどさなど音声で残すのも一つの方法」(83歳女性)など何らかの仕組みを模索する。高校生の活動など若い世代に期待する一方、「あまりに無関心な人が多い。平和ぼけしている」(75歳女性)、「若者に聞く耳がない」(74歳女性)など、引き継ぐ側の姿勢を指摘する声もあった。

【中韓、北朝鮮への政府対応】 対話で解決してほしい

「戦後70年を迎えようとしていますが、隣の中国や韓国、北朝鮮とは過去の歴史や領土問題で関係が冷え込んでいます。日本政府はどのようにすべきと考えますか」。この設問では、過去の過ちを繰り返さないよう、隣国との関係を武力ではなく対話で解決してほしいという意見が多数を占めた。
どのような態度で向き合うべきか。「互いに許し合うこと」(85歳女性)、「思いやりをもって交流を深める」(82歳男性)、「時間をかけて何度も話し合いをするほかに道はない」(90歳女性)、「アジアは一つ。もっとアジアを大切に」(78歳女性)、「中途半端ではなく、最後まで話し合う」(81歳女性)など、地道で誠実な外交を願う声が相次いだ。
一方、「日本の謙虚な国民性は大切だが、もっと強い態度で対処すべき」(71歳女性)という指摘も。「是は是、非は非として堂々と交渉してほしい」(79歳女性)、「領土問題は譲るべきではない」(83歳男性)など、毅然(きぜん)とした対応を求める声も強い。
核問題や領土問題、歴史認識、拉致被害-。関係改善へ向けて解決すべき課題が山積しているだけに「大変難しい問題」(96歳女性)、「現状では何とも言えない」(78歳男性)、「考えきれない」(88歳女性)と頭を抱える。「親しくすべきだが、今の隣国は自分の言い分ばかりで勝手過ぎ」(80歳女性)という意見もあった。
「何か起こりそうで不安」(73歳女性)と、関係悪化を懸念する声も。相互理解を進めるため「正しい知識を教科書で教えるべき」(74歳男性)、「過去の歴史を互いに勉強する」(89歳女性)、「共同で歴史を検証し、協力して平和を進めてほしい」(82歳女性)という提言もあった。