扉を開いて
 紙芝居で伝える平和 中

弓井さんが「天国で授業の続きをしているかも」と話す田島さん=長崎新聞社

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扉を開いて 紙芝居で伝える平和 中 得意な絵生かし
被爆手記の衝撃形に

2010/08/06 掲載

扉を開いて
 紙芝居で伝える平和 中

弓井さんが「天国で授業の続きをしているかも」と話す田島さん=長崎新聞社

得意な絵生かし
被爆手記の衝撃形に

長崎市の市制施行120周年を記念し、昨年度開催された「長崎から伝える平和の紙芝居コンクール」。最高賞の長崎平和賞に選ばれたのは、長崎市川口町の会社員、田島秀彦さん(43)の「瞳の中の子どもたち」。原爆投下時に山里国民学校(現・山里小)で教師を務めた故弓井一子さんの手記をまとめたものだ。

田島さんは長崎市出身だが、両親は被爆者ではなく、平和活動に必ずしも積極的ではない。しかし「長崎では8月9日は特別な日。一市民として何らかの形でかかわりたかった」という。

美術系の大学を卒業した田島さんは、もともと絵が得意。紙芝居については「1枚の絵で情景を表現し、その場で誰かが演じるという気軽なところに興味があった」。

紙芝居の題材を探していた際、知人から弓井さんの手記のことを聞いた。弓井さんは、防空壕(ごう)を掘っている最中に被爆。運良く壕の中に逃げ込んだため、かすり傷程度で済んだが、多くの教え子を失ったという。その話に衝撃を受け「ぜひとも紙芝居にしたい」と思った。遺族から許可を得て、制作を開始。原爆資料館や山里小に直接出向いたり、他の被爆者の体験にも耳を傾けた。

紙芝居のクライマックスでは、山里小に逃げてきた教え子のみさ子ちゃんが、弓井さんの瞳に自分の姿が映っていると言いながら息を引き取る。「ねえ先生、先生の眼(め)の中にみさ子がいるよ…」-。家族全員の最期に直面し、先生を頼ってきたみさ子ちゃんの姿を想像しながら「描いていて、涙があふれてきた」と田島さん。

悲しい場面で紙芝居を終えたくはなかった。今は亡き弓井先生が「天国で“あの子たち”に授業の続きをしているかもしれない」との思いで、最後の1枚は先生を囲んで楽しそうに笑う子どもたちの姿を描いた。「将来に希望を持ってほしい」との願いからだ。

紙芝居は市によって印刷され、市内の小中学校に配られた。9月に開かれる紙しばい会の発表会でも演じられる予定という。

弓井さんの思いは、田島さんの紙芝居を通じて受け継がれている。