未来を託して
 =高校生一万人署名の軌跡= 5

ロマンモレー部長を前に、英語で平和へのスピーチをする高校生平和大使たち=8月18日、スイス・ジュネーブの国連欧州本部

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未来を託して =高校生一万人署名の軌跡= 5 国連欧州本部
届けた名簿に熱い“返事”

2005/09/18 掲載

未来を託して
 =高校生一万人署名の軌跡= 5

ロマンモレー部長を前に、英語で平和へのスピーチをする高校生平和大使たち=8月18日、スイス・ジュネーブの国連欧州本部

国連欧州本部
届けた名簿に熱い“返事”

八月十八日。スイス・ジュネーブの空は青く晴れ渡っていた。国際機関の建物が立ち並ぶ一角にある国連欧州本部の前。国連加盟各国の色鮮やかな国旗が風に揺れていた。

五人の高校生平和大使が長崎から持参した署名用紙を抱え、緊張した表情で立つ。十一日の集約集会後も各地から寄せられ、最終的に九万一千百七十八人分に達した。

同本部内の一室。同本部軍縮局ジュネーブ部長のエンリケ・ロマンモレー氏が満面の笑みをたたえ、一行を歓迎した。

平和大使の一人、山田詩郎君(19)=長崎東高三年=は米国での留学経験や、今年五月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議で訪米した際の体験を率直にぶつけた。

「彼らは(核兵器の)恐ろしさに無知なだけ。でも、私たちがどんなに訴えても、核を持つ国の人々が決断しなければ決して核はなくならない」。山田君の胸の中には、残された時間が少ない被爆者たちの切実な願いがある。

「被爆者は訴え続け、待ち続けました。しかし、自分の生きている間に核兵器の廃絶が現実にならないと悟りつつあります。国連が核軍縮をリードすることを望んでいます」。山田君は国連の努力を促し、スピーチを締めくくった。

ロマンモレー部長は五人の平和大使の話に聞き入り、「被爆者の生の声を聞く最後の世代はあなたたち。被爆者の話を次の世代に伝えるのがあなたたちの役目」と穏やかな口調で語った。

南米ペルー出身のロマンモレー部長は、世界初の非核兵器地帯条約であるラテンアメリカ核兵器禁止条約(トラテロルコ条約、一九六八年発効)の実施機関ラテンアメリカ核兵器禁止機構(OPANAL)の事務局長を経て、二〇〇〇年から現職を務める。

同部長は、世界唯一の多国籍軍縮交渉機関で同本部に置かれている「ジュネーブ軍縮会議」の事務局次長を兼任。しかし、同会議は九年間、核保有国と非核国の対立で空転状態が続く。

九万一千百七十八人分。ロマンモレー部長も、年々増え続ける署名数に驚いた表情を見せ、分厚い署名簿を大きな体で包み込むように受け取った。そして、予期せぬ言葉を発した。

「私があなた方の署名を受け取るのは今年で最後になるだろう。しかし、職を辞した後も核軍縮に向けて闘う。あなた方も、決してあきらめず、前を向いて歩いてください」。ロマンモレー部長の言葉には、未来を歩む平和大使たちへの熱いメッセージが込められていた。