揺らぐ援護
 =被爆体験者の行方= 下

地元医師向けの説明会。混乱した国の説明に反発の声が上がった=4月14日、長崎市の県総合福祉センター

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揺らぐ援護 =被爆体験者の行方= 下 反 発
迷走する国の説明

2005/06/01 掲載

揺らぐ援護
 =被爆体験者の行方= 下

地元医師向けの説明会。混乱した国の説明に反発の声が上がった=4月14日、長崎市の県総合福祉センター

反 発
迷走する国の説明

「制度の根幹である目的まで変わったのはなぜなのか」

四月十四日、長崎市内であった地元医師向けの説明会。昨年秋、居住要件と現行制度の在り方を協議した国の検討会でも委員を務めた中根允文長崎国際大教授(精神科医)は真っ先に、厚生労働省の担当者に説明を求めた。

中根氏が言う目的の変更とは―。二〇〇二年四月にスタートした際は「健康の保持、向上に資する」。しかし、六月から変わる制度では「精神疾患と合併症の改善、緩解および治癒を図る」とされ、中根氏ら地元医師たちは首をひねる。

これに対し、厚労省健康局総務課の浅沼一成課長補佐は「変更ではない。制度の趣旨をより明確化し、本来の姿に立ち戻るだけ」と譲らない。

地元医師たちが目的にこだわるのは大きな理由がある。この制度が始まる直前の〇二年三月、当時の厚労省課長補佐が「被爆者に準じた扱いを」と、より多くの被爆体験者の救済を促した経緯があるからだ。

「甘いまんじゅうを半分食べさせて、取り上げるようなもの」。諫早市の医師は今回の見直しをこう例える。「予算が予想より上回ったから、急きょ予算枠を設けたり、内容を厳しくしたり―。きちんと見通せなかった行政の失態にみんな振り回されている」

〇三年度の医療費支給総額は約十二億五千万円。国の予想(約三億三千万円)を大きく上回った。〇四年度の総額も約十四億円と増える一方。「予算抑制のための見直しではないが、財政サイドの指摘もあり、内容を検証した。今後も適切な運用がなされないなら、制度の廃止もあり得る」(厚労省)。国の説明は完全に混乱している。

一方で、約八千人の対象者を抱える長崎市医師会を中心に医療サイドと県、長崎市は水面下で協議を重ねてきた。「どうしても疑問が残るが、少しでも対象者が楽になる方法を県と市に提案している」(同医師会)

具体的には▽保健師による対象者全員(約一万人)の検査(スクリーニング)と、新しい「被爆体験者精神医療受給者証」の交付審査の期間短縮▽医師の合併症に関する病状報告書費用の軽減▽償還払いの手続きの簡素化―などだ。

関係者によると、対象者の負担軽減につながる具体的な方策が固まりつつあるが、市は「はっきりとした段階で報告する」と慎重な姿勢を崩さない。”見切り発車”の感がぬぐえないまま、原爆投下から六十年、被爆体験者たちは援護の行方を再び注視している。

国が新たに示した被爆体験に起因する対象精神疾患と対象合併症 精神疾患=気分障害、神経症、ストレス関連障害、睡眠▽合併症=身体化症状と心身症(心臓血管、呼吸器、消化器など)など計約80疾患。「被爆体験者精神医療受給者証」に記載された疾病以外の疾病が発病した場合、翌年度の受給者証更新時に被爆体験によると認められれば、発病時までさかのぼって医療費の自己負担分が支給される(領収書など必要)。