被爆60周年へ
 =ナガサキの課題= 8(完)

米国の平和運動関係者と交流する小峰秀孝さん(中央)=8月、米ニュージャージー

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被爆60周年へ =ナガサキの課題= 8(完) 限られた時間 証言者の消滅避けたい

2004/12/03 掲載

被爆60周年へ
 =ナガサキの課題= 8(完)

米国の平和運動関係者と交流する小峰秀孝さん(中央)=8月、米ニュージャージー

限られた時間 証言者の消滅避けたい

「『原爆を落としたアメリカや、やけどした足を笑った同級生を恨んではいけない。戦争を恨みなさい』―。母にそう聞かされて育った。だから、私は憎んではいない」。私たちの国を恨んでいるか―との米国人の質問にこう答えた。

被爆者の小峰秀孝さん(64)=長崎市音無町=。今年八月、日本被団協の遊説団に参加し、広島、長崎の「原爆の日」を米国で過ごした時のことだ。

九日間で、ワシントンとニュージャージーを回った。街頭の平和集会やヒロシマ・ナガサキの追悼行事で、四歳の時に手足に大やけどを負った自らの被爆体験を語り、湾岸戦争がイラクにもたらした劣化ウラン弾の被害を繰り返し訴えた。

「湾岸の被害の写真集を見た男性が泣いた。『知らなかった。ごめんなさい』。私に謝ってどうするかって思ったよ。でも、どの場所も、通りすがりの人は誰一人、足を止めようとはしなかった」

米国の市民に共感を広げた手応えと、無関心を目の当たりにした落胆を、小峰さんは一度に実感した。「それでも、一人でも二人でも証言を聞いてくれるのなら、被爆者は米国に行くべきだ」と思う。

その米国から十一月、思わぬ朗報が舞い込んだ。米議会は、政府が要求した「地中貫通型核兵器」など新型核・小型核研究の関連予算を二〇〇五年度歳出法案から全額削除させた。

野党・民主党のエドワード・マーキー下院議員は、声明でその意図を明快に説明している。「核兵器を持つなと他国を説得しようとするのなら、この米国で、新世代の核兵器を造る準備をすることはできない」。対外政策や核問題で強硬路線を歩み続けてきたブッシュ政権に、二期目のスタートで議会が強烈なブレーキをかけた。

「米国には核に対するいろんな考えが同居している。あきらめてはいけないんですね」。長崎被災協事務局長の山田拓民さん(73)はしみじみと話す。

山田さんは、被爆者に残された時間の短さを肌で感じている。「このごろ顔を見ないな、と思う人がいる。と、次には『亡くなった』と聞かされる。ここ数年、そんなことが本当に増えた」

「被爆者がいつの間にか消えてしまった、ということだけは絶対にあってはならない」(山田さん)。限られた時間の中で、次世代に、そして世界に何を語り、何を形にして残すか。六十年の節目を前に、被爆者と被爆地への重い問い掛けが続く。