この声を聞いて
 =在韓被爆者リポート= 2

韓国人被爆者らに国の健康管理手当支給方針を説明する平野伸人さん(右)=韓国・釜山市、韓国原爆被害者協会釜山支部

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この声を聞いて =在韓被爆者リポート= 2 「生きている間に支給されるのか」
国の説明なく混乱

2003/03/08 掲載

この声を聞いて
 =在韓被爆者リポート= 2

韓国人被爆者らに国の健康管理手当支給方針を説明する平野伸人さん(右)=韓国・釜山市、韓国原爆被害者協会釜山支部

「生きている間に支給されるのか」
国の説明なく混乱

今月一日、韓国・釜山市内にある韓国原爆被害者協会釜山支部長、車貞述(チャジョンスル)さん(73)の自宅。ここを支援活動に取り組む平野伸人さん(56)が訪れた。同じく釜山市に住む被爆者、李康寧(イカンニョン)さん(75)の裁判の報告と、日本政府が昨年末に打ち出した被爆者援護法に基づく健康管理手当支給の方針について、正確な情報を伝えるためだ。

80人が質問攻めに

平野さんは、集まった大勢の韓国人被爆者を前に話し始めた。

「まず、来日できる人は手当の受給資格を取りに行ってください。裁判で勝ち取った権利をできるだけ手に入れましょう。病気で来日できない人や手帳を持たない人は少し待ってください」

李さんに対し、福岡高裁は二月、出国後も手当の受給資格を認め、国に支払いを命じた。だが国は「手当支給は地方自治体の事務」とする見解を譲らず、裁判の行方は最高裁に持ち越されることになった。

釜山支部を兼ねる車さん宅では、三つの部屋と台所、廊下、玄関先まで、平野さんの話を聞こうと約八十人の被爆者で埋まった。

古びた被爆者健康手帳や受給資格証明書を持ってきた人もいるが、手当支給とは関係ない病院の診察券を握りしめた人もいる。

「生きている間に手当は支給されるのか」「私の場合は、どのような手続きをしたらいいのか」。年老いた被爆者たちが平野さんを質問攻めにした。

裁判に反応分かれ

支部には約四百人が加入するが、二カ月に一度の例会に参加するのは多くて五十人。「支部始まって以来の人の集まり」と車さんは言った。

手当への関心の高さの一方、裁判に対する反応は分かれた。

金伊逑(キムイースル)さん(76)は「何度勝っても同じ。日本政府は私たちに見向きもしない」。鄭一鳳(チョンイルボン)さん(71)は「よく頑張ってくれた。上告は、手当を払うのが国か、地方自治体かだけの問題で、勝ったも同然」と喜んだ。

十数年にわたり支援してきた平野さんにとって、この日の韓国人被爆者たちは「かつてない明るい表情」だった。一方で「そもそも、手当支給について私が説明する立場ではない。国が何も言っていないから、混乱が生じるのだ。国は海外の被爆者が置かれた現状を見に来るのが先だ」。平野さんは国の対応のまずさにいらだっている。