開かれた扉 = 『松谷訴訟』勝訴確定 = 上

原爆症認定の基準見直しに期待が込められた松谷訴訟原告団の記者会見=18日・長崎市桜町、勤労福祉会館

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開かれた扉 = 『松谷訴訟』勝訴確定 = 上 判決の意義 認定基準見直しに期待

2000/07/20 掲載

開かれた扉 = 『松谷訴訟』勝訴確定 = 上

原爆症認定の基準見直しに期待が込められた松谷訴訟原告団の記者会見=18日・長崎市桜町、勤労福祉会館

判決の意義 認定基準見直しに期待

長崎原爆で被爆し障害を負った長崎市深堀町一丁目、松谷英子さん(58)が、国の原爆症認定申請却下処分の取り消しを求めた「長崎原爆松谷訴訟」。十八日の最高裁判決で、原告側の勝訴が確定。松谷さんは司法判断で原爆症と認められた。固く、重かった原爆症認定の「扉」を押し開いた原告団と支援者。判決の意義と、被爆者行政に与える影響を取材した。
「爆心地から二キロ以遠でも、放射線障害があるのが証明された。これから申請したいと申し出る人がいれば、助け合っていきたい」

松谷さんの勝訴が確定した十八日、原告弁護団や支援者が長崎市内で開いた記者会見。長崎原爆被災者協議会の葉山利行会長は今後、国の原爆症認定の基準が見直されるように大きな期待を込めた。

松谷さんは三歳のとき、爆心地から二・四五キロで被爆。原爆の爆風で飛んだかわらが頭部を直撃、右半身がまひした。これまでは、爆心地から二キロ以内でなければ、ほとんど原爆症と認定されていないのが実情。だが最高裁は、松谷さんの障害が「原爆の放射線に起因していると考えることも可能」とし、一、二審同様、放射線との因果関係を認め、松谷さんを原爆症と判断した。

裁判終結までに要した歳月は約十二年。その間も、松谷さんは障害に苦しみ続けた。ただでさえ歩行はままならないというのに「最近はちょっとしたことで転ぶようになった」(松谷さん)。被爆者の健康の悩みは年々深刻化する。しかし、国は裁判で終始一貫、「松谷さんに放射線の影響はない」とかたくなな姿勢を崩さなかった。

被ばく線量推定方式「DS86」。国が盾にしてきたのは、爆心地からの距離を基準とするこの尺度だった。「DS86を当てはめれば、遠距離被爆者である松谷さんの推定線量は低く、身体に影響の出る値(しきい値)に達していない」という論理だ。

しかし、最高裁は判決で「(DS86を)機械的に適用した場合には、松谷さんの症状は十分説明できない」と、国のよりどころを揺るがした。松谷さんは遠距離被爆者なのに、脱毛など急性放射線障害が起こった。その理由を説明する論拠を国は持たない。司法はそう結論づけた。

認定制度の見直しを迫られた国。しかし、厚生省の保健医療局企画課は「一般論として、個別の判決によって認定制度そのものを見直すとは考えにくい」とし、原爆症認定を松谷さん個人のケースにとどめる姿勢をのぞかせる。

DS86に基づく推定線量では影響を受けないはずの被爆者の中に、放射線の影響とみられる傷病で、いまなお苦しんでいる人は少なくない。一方で、長崎市原爆被爆者対策部援護課によると、同市内で一九九九年度末現在、原爆症と認定された被爆者は三百九十七人で、市内被爆者の〇・七%にすぎない。しかし、山口俊一郎同課長は「松谷訴訟の勝訴確定で、今後申請が増える可能性がある」とみている。