人口減、政治離れ…町存続の危機 来春の小値賀町議選 “なり手不足”問題

2022/10/18 [10:30] 公開

来春の小値賀町議選は定数割れの可能性もある=町議会議場(議会事務局提供)

 五島列島の北部に浮かぶ人口約2300人の町、長崎県北松小値賀町。17の離島からなるこの島で来春、4年に1度の町議会(定数8)議員選挙が実施される。だが現在は欠員1で7人しかいない上、複数の現職が不出馬の意向を固めているとみられる。定数割れの可能性が浮上しており、議会からは町の存続を危ぶむ声も上がっている。
 先月27日、同町の離島開発総合センター。町議会アドバイザーで新潟県立大国際地域学部准教授の田口一博氏は集まった約40人の町民に訴えた。「憲法で議会の設置は義務付けられている。それができないのなら独立した町であることをやめ、他の市町村に合併を求めることになる」。この講演のテーマは「議員のなり手不足」。危機感を抱いた議会が主催した。
 同町は、2004年から10年にかけて県内79市町村が21市町に再編された「平成の大合併」時に、住民投票などで「自立の道」を選択。議会は15年、人口減に伴い定数を10から8に削減した。さらに若者の政治参加を促そうと、50歳以下の議員報酬を通常の月額18万円から30万円に引き上げたが、該当者が出ないまま18年に制度を廃止した。前回19年の選挙では立候補の届け出締め切り直前に元職の男性が手を挙げ、土壇場で定数割れを回避。その後、1人が辞職した。

小値賀町議会などの主な動き

 現在、議員7人の最高齢は83歳で平均73.9歳。うち数人が高齢や健康上の問題を理由に次回選挙に出馬しない模様だが、公選法上、当選者が7人を下回れば再選挙となり混乱を招きかねない。なり手不足の要因として横山弘藏議長は人口減少に加え、若者の政治離れ、仕事と議員活動との兼務の難しさなどを挙げる。
 人口減少に対しては町も、何ら手を打ってこなかったわけではない。移住促進策や、雇用創出などで地域社会を維持する国境離島新法の効果もあり、20年には転入が転出を上回る「社会増」を4年ぶりに達成。だが、死亡数が出生数を上回る「自然減」が常態化しており、社会増は「帳消し」になってしまう。
 講演した田口氏は、議会運営が困難になっても町が「自立の道」を続ける手法として、議会に代わり有権者が議案を直接審議する、地方自治法上の「総会」を挙げた。ただ、総会成立には町有権者(先月1日時点・2014人)の半数以上の出席が必要となり、「現実的ではない」という。総会は同法施行の1947年以降、東京の村で導入された例があるが、現時点では存在しない。
 「議員活動のサポートを体験したり議会を傍聴したりして、町を存続させるためにはどうすべきか考えてほしい」と田口氏。出席したミニトマト農家の橋本武士さん(55)は「なり手不足の問題は知っていた。農業をしながらでは議員活動の時間が限られるとの心配はあるが、議員の道も考えてみたい」と感想。主婦の松永清美さん(61)は町内で過去1人もいない女性議員の必要性を認めつつ「女性が表に出ること(議員になること)を島の土壌がどう受け止めるだろうか」と首をひねる。
 横山議長は「町の危機的状況を町民に自覚してほしかった。せっかく自立できているのに、町と議会の二元代表制を堅持できなければ、存続は危うい。なり手不足は町全体の問題。多様な人材に手を挙げてほしい」と強調した。