田畑を遠隔管理 スマート農業の実証実験 アドミン「ルートヴィレッジ」 長崎、西海市

2022/03/08 [09:35] 公開

スマート農業の実証実験に使っているIoTコテージと山口氏=長崎市(アドミン提供)

 長崎、西海両市にまたがる山中で、IT企業アドミン(長崎市、山口知宏代表取締役)によるスマート農業の実証実験が進んでいる。人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)の技術を駆使して田畑を遠隔管理。低コストで建築できる住居兼管理棟「IoTコテージ」や支援ロボットの研究開発も加速させている。
 8畳ほどの室内にエアコンを備え、中2階は就寝スペース。壁に内蔵したモニターには周囲の畑が映る。鳥獣被害などをカメラで監視する。田んぼの水温や水位をセンサーで測り、リアルタイムで表示。注水のタイミングや量を最適に自動調整している。これらのデータは出先でもスマートフォンでチェック可能。問題があればアラートメールが届き、遠隔操作できる。

モニターには田畑のデータが表示される。スマホでもチェックできる

 このIoTコテージは「ルートヴィレッジ」の一角にある。アドミンが、ながさき県民の森に近い約110万平方メートルの山林を購入し、昨年4月から整備を本格化。当初「スマートビレッジ」と名付けたが、国連の持続可能な開発目標(SDGs)推進に向け、「根(ルート)を強く張り持続可能な世界を育もう」との思いを込め改称した。スマート農業は一般社団法人サイバースマートシティ創造協議会(橋本剛代表理事)と連携している。
 コテージの電源は屋根上の太陽光パネルで最大発電量1260ワット時。雨どいをタンクにつなぎ散水用雨水を確保する。今後は飲水用ろ過や生活排水処理のシステムを加え、風力やバイオマスの発電も見据える。材料費はわずか50万円程度(家電除く)。いずれはオープンソースとして設計図やプログラムを公開し、難民キャンプや被災地で活用してもらい「テクノロジーで世界に貢献する」(山口氏)という。

モニターには気象や土壌水分量など田畑に関するデータが表示される(アドミン提供)

 派生的な活用策として、西海市で昆虫食を扱うBugsWell(バグズウェル)との共同研究で、栄養価が高いコオロギの養殖を今年始める。
 さらにアドミンは、水や液肥を散布するロボットも研究中。それを加速させるため3次元シミュレーターを開発した。CAD(コンピューター利用設計)データを基に、仮想空間で重力や風力などを再現。AIによる機械学習機能を備えており、実機を試作する回数を減らし、開発効率を飛躍的に向上できる。
 これらの技術を人手が不足する農業の生産性向上や兼業の普及に生かす。ルートヴィレッジ内では、IoTコテージを並べる居住区の整備にも着手した。クリエイターやエンジニアら多様な人材が農業未経験でも自給自足し、SDGsに資する研究開発に専念できる環境にする。山口氏は「オープンイノベーションやベンチャー企業創出につなげたい」としている。