長崎でクラスター相次ぐ 高齢者の「居場所」昼カラオケ 予防策を模索

2021/05/13 [10:43] 公開

 新型コロナウイルス感染が急拡大する長崎市でここ1カ月のうちに、昼からカラオケを提供する店でのクラスター(感染者集団)が5件相次ぎ、感染者は計48人に上った。市は、いずれも店内の換気が不十分だった上、飛沫が感染拡大につながった可能性を指摘。一方、利用者の多くは高齢者で健康維持に役立てており、業界団体は予防策を模索している。

■ 協力金なし

消毒液、体温計、マイクカバー、ビニール製の囲い(後方)…。あるカラオケ喫茶はさまざまな感染対策をしていたが、他店でクラスターが相次ぐ中、休業を決めた=長崎市内

 「銅座の店が閉まったから、こっちに来たよ」。4月下旬、市内のあるカラオケ喫茶には、そんな客が訪れ始めた。同じころ、銅座地区など繁華街で同業者のクラスターが発生。周辺店も休業し、歌い場所を求める客が流れてきたのだ。
 複数の行きつけ店を持つ愛好家も少なくないという。「自分の歌を多くの人に聞かせたり、上手な人の歌を聞いたりしたいのでは」。こうした事情がクラスターが続く一因になった-と店主は推測する。
 この店では飛沫対策として空気清浄器を備えるほか、客にはビニールで覆った囲いの中で歌うよう勧める。ただ、座席で歌う途中にマスクを外してしまう客もいる。音が外に漏れれば近所迷惑になるため、出入り口の常時開放はできない。店主は「完全な対策は難しい」と考え、昼の営業を中止した。
 市のカラオケ提供自粛要請に応じても協力金はない。しかも、利用の有無にかかわらず、機器のリース代や著作権料などの固定費が毎月かかる。店主は「売り上げの大半は昼営業なので、きつい」と打ち明ける。

■ 改善の余地
 市市民健康部によると、「昼カラオケ」関連のクラスターは4月24日以降5件確認され、計48人が感染。第4波に限ると、「接待を伴う飲食店」(3件)より多い。歌う時は会話時よりも飛沫が多く、発生店ではいずれも、周囲への騒音などを理由に換気が十分でなかった。マスクを外して歌っていたケースも複数確認された。
 第3波までは昼カラオケのクラスターは確認されず、関係者から「大丈夫と思っていた」との声も上がる。市は「より感染力が強いとされる変異株の流行で状況は変わった」とみる。
 全国の店舗で感染が広がる中、全国カラオケ事業者協会(東京)は「歌唱時のマスク常時着用」などを盛り込んだガイドラインの周知を改めて図っている。専門家を交えてクラスター事例を検証し、予防策を検討中。店内換気について、同協会の片岡史朗専務理事は「空気の流れをつくる設備を導入するなど、改善できる余地はある」としている。

■ 健康のため
 感染した48人は70~80代が中心。コロナ流行前、カラオケは認知症予防や孤立の防止のため、むしろ推奨されていた。カラオケ喫茶に3年ほど前から通う市内の70代女性にとっては「居場所」。歌うと嫌なことを忘れ、歌詞を一生懸命覚えることで「ぼけ防止になる」という。女性は「週1回の大切な時間。行けなくなると、やっぱり寂しい」。
 片岡専務理事はカラオケの有用性を強調する。「心身のストレスを発散し、免疫力を高めるとの学術的なデータもある。行けないことで健康を害する人がいるかもしれない。『歌うことは全て駄目』ではなく、コロナ禍でどうすればいいのかを探っていく」