お題は「実」

2021/03/28 [09:34] 公開

 「場当たり的」という言葉が、昨年の今頃は飛び交っていて、今もやまない。新型コロナ対策を巡る政府のこの1年の対応は、国民を何かと戸惑わせてきた▲昨年の2月末、当時の安倍晋三首相がいきなり、小中高校を一斉休校するよう要請し、大混乱した。「対応が後手後手」という批判をかわすため、ごり押ししたとされる▲それからすぐに休校に入り、新学期になって再開された。ところが、わずか半月ほどで県内は、全国に出された緊急事態宣言を受けて再び休校となる。混乱が続いたのを、心に刻む人も多いだろう▲いつもの春だと、新入学生の心は「わくわく」と「そわそわ」が入り交じるはずだが、昨年の春は違っていた。佐世保市立柚木中1年の久田桃香さんは詠んでいる。〈実感がどうしてもない私(わたくし)が中学一年だといふことが〉▲例年より遅れた「歌会始の儀」の一般応募のうち、佳作に選ばれた。題は「実」で、休校や学校行事の中止・延期が続いた時の思いを込めたという。4月の暦に何も書き込むことがなくて、真っ白に見える。そんな心持ちだったかもしれない▲久田さんに限らず、一首の思いは多くの新入学生に通じるものだろう。この先、実感ならばぐんと深まり、たくさんの実りもあるに違いない。「実」のお題をどうか、ずっと忘れずに。(徹)