日英の文化 入り交じる イシグロ氏作品を研究 岐阜薬科大 武富利亜教授

2020/10/21 [12:30] 公開

団地とイシグロ氏との関わりを語る武富教授=長崎市魚の町

 カズオ・イシグロ氏の作品を10年以上研究する岐阜薬科大の武富利亜教授(53)に、イシグロ氏にとっての「団地」の存在、また作品の楽しみ方を聞いた。
 -作品をどう分析しているか。
 過去のインタビュー記事を参考にすると、当初海外では日本人として扱われていた。だが、本人は日本語をまともに話せないし、読めない。一方で「英国人ではない」との葛藤はあったと推察できる。その後、「インターナショナル作家」として自分を位置付け、作品の舞台をどこの国か分からないようにしている。日英両方の文化や社会的背景が入り交じっているのが、作品に現れている。
 -なぜ団地に注目したのか。
 日本を舞台にした作品に必ず出てくるのが「団地」。疑問に思い、当時の長崎の風景を知りたくて10年前に長崎を訪れた。(イシグロ氏が長崎にいたころ)木造住宅が一般的ななかで、団地は非常に目立つ存在だったと思う。さらに英国で10代のころ目にしたのが小津安二郎監督の「東京物語」といった映画やドラマだった。流れていた映像が自分の記憶している「日本」と合致した。だから団地を書かざるを得ない衝動にかられたのではないか。
 -作品の楽しみ方は。
 日本、祖父、友人と別れるという大きな変化を5歳で経験した。知らない土地で、全く違う言語での生活。いろいろな葛藤があったはず。その葛藤が、どう作品に現れているかを発見すると面白い。また日本で起きたことを参考にした描写があり、日本を非常に意識しているのも分かる。