「つつがなく」ではなくて

2019/10/26 [10:29] 公開

 「つつが虫」という人の血を吸う虫がいるらしい。そんな虫はいなくて、病気も異変もない。「つつがなく暮らす」とは平穏無事でいることをいう▲とにかく、つつがなく…と、つぶやきが聞こえるようでもある。毎年、日本政府は国連総会の委員会に「核兵器廃絶決議案」を提出してきたが、今年は核使用が招く非人道的な結末への「深い懸念」という言葉が削られ、非核の誓いは後退した▲米国もロシアも新型の核兵器の開発を進めている。背景には軍事的な勢いを増す中国の存在があり、大国は核軍拡競争に肩を怒らせる。これに歯止めを、と被爆国が物申すかといえばそうではなくて、米ロの核削減を促す言葉も決議案にはない▲核が使われたらどうなるか。非人道的な結末への「深い懸念」とは、国連で採択された「核兵器禁止条約」の根っこにある考えだが、核大国は条約に見向きもせず、核軍拡へと向かう▲いま「深い懸念」を示せば、核保有国の機嫌を損ねかねない。波風立てず、当たり障りなく。日本は不興を買わない道を選んだようにしか見えない▲対立する核保有国と非保有国の「橋渡しをする」と日本政府は言うが、周りの顔色をうかがい、後ずさるような仕草を「橋渡し」とは呼ばない。つつが虫を身から払うよりも、日本はずっと重い役目を負う。(徹)