ヘルシー志向の女性に人気 果物・野菜専門BAR

2019/09/24 [12:15] 公開

果実酒をカップに注ぐ渕上さん=長崎市鍛冶屋町、農家バー「NaYa」

 長崎市鍛冶屋町の「農家BAR NaYa(なや)」。店の棚にはウメ、パプリカ、シイタケなどさまざまな果物や野菜を酒に漬けた瓶がずらりと並ぶ。これらは店主・渕上桂樹さん(35)の自家製。かつて雲仙市国見町で農業を営んでいた渕上さんは「お酒を通じ多くの人に果物や野菜のおいしさを再発見してほしい」と昨年7月、同店をオープン。ヘルシー志向の女性客らの人気を集めている。
 渕上さんは同町生まれ。両親は兼業農家を営んでおり、幼い頃から自分の家の畑で取れる新鮮な野菜を食べて育った。高校卒業後、千葉の大手スーパーで野菜や果物、花きの販売などを担当。「農産物に携わる仕事をするうちに、自分自身が実際に野菜作りをしたくなった」

◆農業は科学だ

 渕上さんはスーパーの仕事をやめ帰郷。実家の農家でトマトやキュウリ、レタスなどの栽培に約2年間取り組んだ。農作業を通じ、安全安心でおいしい野菜を作るためには土や肥料、天候など、決まった条件をきちんとクリアすることが大切だと学んだという。「肥料の成分にカルシウムが足りないと実の形が悪くなる。ニンニクは適温で育てないと発芽すらしない。農業は科学だと感じた」

◆「売り方」転機

 野菜作りが軌道に乗ると「自分が育てた作物を消費者に直接届けたい」と考え、長崎、大村市の繁華街で路上販売を始めた。しかし売れ行きはかんばしくなかった。ある時、ロメインレタスを販売していると「見慣れない野菜だけど、おいしいですか」と主婦から声を掛けられた。「炒めて食べると甘みが増しておいしいですよ」と言っても簡単に信じてもらえない。「調理法などを説明したら消費者は納得して買ってくれると思っていた。現実の厳しさを知った」
 ところが、転機が訪れる。ある冬の寒い日、ホットワインに売り物の果物を搾って混ぜ販売したところ、「味わい深くておいしい」と飛ぶように売れた。「商品を売るには実際に試してもらうのが一番だった」。渕上さんはこれまでの売り方が間違っていたことに気付いた。
 ホットワインからヒントを得たこともあり、果物・野菜酒を専門に提供する同店をオープン。店の経営に専念するため農業はやめた。酒の材料となる野菜や果物は実家や知人の農家などから旬の物を中心に仕入れている。

◆独特のうま味

 酒の材料はウメやモモ、イチゴなどのほか、変わり種ではポルチーニ茸(だけ)、高麗人参(こうらいにんじん)、ゴーヤーなど約40種類。ホワイトリカーやブランデーなどに約3カ月間漬け込み完成させる。値段はどれも1杯600円。「1番人気はシイタケ酒。独特のうま味が凝縮されておいしい。ビワ酒は種から出たエキスで杏仁(あんにん)豆腐のような味になったのが意外だった」
 客は女性が多く、注文した酒に使った野菜の産地などを話すと、興味を持って聞いてくれるという。渕上さんは「これからは農業の楽しさも伝えていきたい」と今夜もバーのカウンターに立つ。