真っすぐ胸に響いた 前原爆資料館長で芥川賞作家 青来有一さん

2019/08/12 [11:41] 公開

「被爆者の切実な願いがよく伝わる式典だった」と話す青来さん=長崎市、平和公園

 「冒頭に被爆者の詩が引用され、素朴なメッセージとして真っすぐ胸に響いた」。3月末で長崎市役所を退職した芥川賞作家の青来有一さん(60)は、平和祈念式典会場で長崎平和宣言について感慨深く述べた。昨年までは長崎原爆資料館長として主催者席にいた。今年は会場内でラジオ中継の解説者として臨んだ。

 平成から令和になり、昭和がまた一つ前の時代になった。被爆から74年。被爆者や参列者も高齢になった。「長崎にいて、現実の時間の流れを肌で感じている」。それでも炎天下、式典会場に向かう人がたくさんいる。生きているうちに核兵器廃絶への道筋が見えるようにしてほしいという被爆者らの願いは、今後ますます切実になっていく。青来さんはそう感じている。
 昨年とは違う立場で平和宣言を聴いた。「核兵器禁止条約に対して日本政府は背を向けていると批判し、禁止条約に署名・批准してくださいと明確に言葉にした。考え方は従来と変わらないが一歩進んだ」と印象を語った。
 平和や核兵器廃絶の願いをどう継承するかは、文学においても重要なテーマだ。「これまでは被爆の当事者が記録文学のような形で書けば、継承や平和の発信という意味での役割を果たせた」。しかし当事者は減り続けている。「その点では文学にできることは縮小しているようにも思う」と危惧。一方で「そんな中で、あえて取り上げていくことは大事。被爆や戦争体験が無いなら無いなりに、想像を膨らませて作品を書いていけば関心を持ってもらうきっかけになる」と文学の可能性を強調する。
 被爆体験の継承の在り方にも考察を深めている。「被爆者本人の記録としての証言は保管され、伝わっていく。その横でそれを巡る議論を絶えずやっていくという継承のイメージを持ち始めている。これからは、人が集まり語り合う場がもっと必要ではないだろうか」