励ましの言葉

2019/05/26 [09:39] 公開

 言い間違いの事例集「言いまつがい」(新潮文庫)に「新人の頃、電話で」と前置きした例がある。〈いつもお世話になりました〉。電話口で先方に言う「いつもお世話になります」が変化したらしい▲言い間違いが、いつかお礼の言葉にもなる。〈いつもお世話になりました〉。遠い昔、励ましの言葉をくれた人に今、送りたいのはこの言葉のように思う▲私事にわたって恐縮だが、入社して2~3カ月の頃と記憶する。新聞の記事に見出しを付け、紙面を組む部署、整理部の十何歳か上の先輩にある日、「飯でもどう?」と誘われた▲それまで話したこともなかった。職場で縮こまっている駆け出し記者をよほど見かねたのだろうな、と今にして思う。会食すると、先輩の話はもっぱら「自省」だった。「頑張っちゃいるが、自分で本当に満足のいく紙面が組めるのは年に1回かそこらだよ」▲何事もすぐにうまくいくもんじゃない、肩の力を抜くといいさ。そう言いたかったのだろう。先輩はとうに退職し、遠目に温かく見守ってくれた人に〈いつもお世話になりました〉と言いそびれたまま今に至る▲言い間違いの例をもう一つ。思い出し笑いを〈思い出笑い〉。社会に出てまだ間もない人たちにとって、新人の頃がいつか、ほろ苦くも笑って話せる思い出になるといい。(徹)