議員の実情 インタビュー編(下)<政治倫理条例> 九州大名誉教授・斎藤文男氏 厳格化へ住民の機運必要

2019/02/12 [09:52] 公開

 政治倫理条例が制定されたきっかけは議員らの汚職事件だった。条例制定の必要性を訴えると「議員を悪者扱いするつもりか」と気色ばむ人がいるが、一部の議員にせよ、不祥事を起こしているのは事実だ。また、収賄事件などは立証するのが難しく、警察や検察が立件しているのはほんの一部にすぎない。議員の良心や捜査機関に期待するだけでは政治腐敗を防ぐことはできないからこそ条例が必要だ。工業製品にJISマークがあるように条例は議員の質を保証するためにある。

 福岡県の市町村や議会で条例が制定された背景には市民運動があった。福岡県内には旧産炭地が多く、石炭産業が衰退する中で、多くの業者が公共事業に群がり腐敗が横行していた。それを何とかしようと条例制定が続いた。今では不祥事を起こさないための「転ばぬ先のつえ」として制定されるようになり、福岡県内の60市町村・議会のうち、条例がないのは4市町村・議会だけ。「条例がないのは恥ずかしい」という感覚が県民に広がっている。

 現在、全国で制定されている多くの条例には「請負辞退」が盛り込まれている。首長や議員が関係する企業は、当該自治体の公共工事を請け負うことを辞退するよう努めなければならないとの規定だ。

 地方自治法は、議員ら本人が役員を務める企業が自治体の公共工事を請け負うことを禁じている。多くの条例では、これを親族企業や実質的に経営に携わっている企業にまで広げた。役員を妻や子どもらに引き継がせる行為が後を絶たなかったからだ。

 こういった条例に対して、「請負規制を首長や議員本人だけでなく、親族企業にまで広げると地方自治法や憲法に違反しないか」との議論もあった。しかし最高裁がすでに合憲判決を出しており決着している。

 また、長崎市など一部の自治体は条例で、市から補助金の交付を受けている社会福祉法人や学校法人の有報酬役員に就かないよう努めなければならないと定めている。

 補助金を受ける団体と首長や議員らとの間の不祥事は実際に起きており、社会福祉法人や学校法人には行政から多額の補助金が入っているからだ。

 政治倫理条例は住民が議員らをチェックするためにある。もしも条例が地元の自治体にないのであれば、つくらなければならない。不正がなくならないなら厳格化することも必要だ。そもそも議員は自分たちを縛る条例をつくりたがらない。条例をつくったり、厳格化したりするには住民が機運をつくることが必要だ。

 【略歴】さいとう・ふみお 和歌山市出身。大阪市立大大学院修了。九州大法学部教授などを経て96年から名誉教授。専門は憲法、行政法。政治倫理・九州ネットワーク代表を務め、これまで20以上の政治倫理条例制定に携わった。86歳。

「政治腐敗を防ぐには政治倫理条例が必要」と訴える斎藤名誉教授=福岡市内