実験用回流水槽のシェア9割 西日本流体技研

2019/02/11 [15:00] 公開

 模型船の舳先(へさき)に当たって生じたうねりは、後方で穏やかな水面に戻っていく。観測部の側面や底がガラス張りの水槽。こうして水の動きは「可視化」される。
 長さ17.5メートル、幅2メートル、深さ6.3メートルの回流水槽「新八(しんぱち)」。模型船で水の抵抗を分析。タンカーや漁船といった種類に応じ、速度や燃費性能など最適な船型を導き出す。
 船舶の開発に利用する水槽は2種類ある。回流水槽は模型船を固定し、人工的に水を流して航行状態を再現。100メートルを超える水槽で模型船を引っ張る曳航(えいこう)水槽と比べコストはかからないものの、不規則な流れや波、泡が生じるため測定精度が落ちる欠点があった。

模型船(中央)を浮かべ、最新技術で水の抵抗を分析する回流水槽「新八」=佐世保市小佐々町、西日本流体技研

 新八は、水の流れの均等性を示す「流速分布」をプラスマイナス1%以内、水面に生じる波の高さはプラスマイナス0.5ミリ以内を実現した。最大流速は秒速2.5メートルで高速船の船型開発も可能に。石井正剛社長(66)は「世界最高水準の性能だ」と胸を張る。
 第二次オイルショックに見舞われた1979年ころ。研究開発部門の縮小を余儀なくされた造船所で、船舶の設計に当たっていた技術者7人が退職。通信関連建設会社を営んでいた正剛氏の父、石井千里氏と正剛氏を加えた9人で設立した。
 流体工学を活用した研究開発と、回流水槽など実験設備の製造に当たる。実験用回流水槽は国内95%のシェアを誇り、海外への納入も多い。造船所に加え、映画「海猿」で有名になった海上保安庁特殊救難隊の救助訓練用水槽を製造。国立スポーツ科学センターにも納入し、ボートやカヌーのオリンピック選手の訓練用に利用される。
 商船三井などと協力し、プロペラの効率改善装置(PBCF)を開発。燃料消費を3~5%節減した。世界中の4千隻に装着されている。流体関連製品の世界的メーカー、米国TSI社と販売代理店契約(1国1社)も結んだ。「空気の流れ」を研究する風洞装置も手掛ける。
 水や空気の流れに関する研究は広がり続ける。レジャー、スポーツ、漁網、ダム、再生可能エネルギー、水中ロボット、搬送機器…。「思いも寄らない需要もある」。石井社長は将来性をこう表現。さらなる海外展開も目指している。
 あらゆる分野に「流れ」は存在する。それをコントロールすることで「省力化」や「効率化」といった技術革新につながる。流れをつかんだとき、時代の先が見える。

模型船の舳先に当たって生じた波

◎西日本流体技研
 佐世保市小佐々町黒石。1979年8月に石井千里氏が設立した。石井正剛代表取締役社長は4代目。従業員は34人(10月現在)。主な取引先は公的機関や大学、高校、民間研究機関、造船所など。