原発事故の教訓 長崎大など検証 研究プロジェクト本格始動 避難や放射線防護 指針策定目指す

2024/05/02 [12:30] 公開

 2011年の東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の教訓を検証し、原子力災害や複合災害の防災、減災の国際的な指針に役立てようと、長崎大を中核とした研究プロジェクトが本格始動する。29年度までに、災害関連死や社会的損失を最小化するための避難の在り方などを研究し、ガイドライン策定や情報発信拠点づくりを目指す。
 政府が昨年設立した福島国際研究教育機構(F-REI、エフレイ)の委託研究。長崎大福島未来創造支援研究センター長の高村昇教授が研究代表者を務め、福島大、福井大、東日本大震災・原子力災害伝承館との4者による研究で、国際機関、福島県など地元自治体や教育・研究機関とも連携する。研究は7年間で昨年度は準備期間だった。
 政府は事故後、第1原発から20キロ圏内に避難指示を出したが、緊急時の年間被ばく線量の国際的な基準値となる、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告「20~100ミリシーベルト以下」に基づいた措置だった。
 一方、避難生活での体調悪化などで亡くなった福島県の「震災関連死」は今年2月1日現在で2343人に上る。立ち入り禁止で飼育が不可能になった家畜が殺処分されるなど産業にも大きな打撃を与えた。
 長崎大は放射線被ばくによる健康リスクの評価と管理などで同県を支援。高村教授は「住民がいち早く避難することで被ばく線量を低く抑えられた一方、避難途中で亡くなった高齢の入院患者もいた」と指摘。「一律ではなく、社会的弱者の避難の在り方を検証する必要がある」と強調する。
 プロジェクトでは「複合災害教訓」「線量」「リスク認知」の大きく三つに分けて研究を進め、ICRPなどと協議し、ガイドラインを策定する方針。複合災害教訓では、避難区域の医療施設における事故直後の線量情報を収集。施設にとどまった場合の線量を推定するなどし、避難の在り方や放射線防護対応について施策をまとめる。
 エフレイは29年度までに研究体制を整備し、ロボットなど5分野で世界最先端の研究開発に取り組む考え。高村教授は「エフレイが原子力災害医療科学分野の研究や専門家育成、情報発信の国際的拠点になるよう貢献したい」と話す。