衆院長崎3区補選 自民の「牙城」離島票奪取へ 野党一騎打ち 白票で“抵抗”も

2024/04/20 [12:00] 公開

野党候補の一騎打ちとなった衆院長崎3区補選。自民党の「牙城」である離島の自民地域支部では、投票先に戸惑う声も上がっている=五島市

 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡り、谷川弥一前衆院議員=自民離党=が辞職したことに伴う衆院長崎3区補欠選挙は、立憲民主党と日本維新の会の野党候補2人が一騎打ちを繰り広げている。自民候補が不在の中、両陣営は自民の「牙城」である離島での票奪取を狙うが、自民支持者の中には投票先を決めきれず白票で“抵抗”しようとの動きも。両陣営は投票率低下や無効票の増加という「見えない敵」を意識した戦いを強いられている。

 18日午後、対馬市厳原町の商業施設前。維新新人、井上翔一朗候補(40)の街頭演説に、自民党員の60代男性が耳を傾けていた。男性は保守派を長年自負し、立民よりも維新に考えが近い。それでも「(投票用紙に)知らない名前を書く気にはなれないな…」。その場から静かに立ち去った。
 維新と争う立民前職の山田勝彦候補(44)はこの日、五島市にいた。前回衆院選から離島で人脈を広げてきた。ただ、今月の壱岐市議補選では現地で「全力応援」した立民候補が保守系候補に敗北し、足場の弱さが露呈した。自民関係者は「離島の票は簡単に切り崩せない」とほくそ笑む。
 自民は裏金事件への厳しい逆風などを理由に、県内の国政選挙で初めて独自候補擁立を断念。党県連の古賀友一郎会長は7日の選挙対策委員会で自主投票とする方針を示した。
 その後、県連幹部は3区内の地域支部を回る「おわび行脚」で経緯を説明した。ある離島の党員はその場で「野党の名前を書いていいのか」と質問。県連側が返答に窮する場面があった。この党員は「自主投票は建前。本音は白紙投票を望んでいる」と感じた。
 前回の衆院選長崎3区は4人が出馬。投票率は60.93%で県内4選挙区で最高だった。谷川氏は投票総数の4割に当たる約5万7千票を獲得。中でも離島5市町(五島、対馬、壱岐3市と新上五島、北松小値賀両町)での得票数は次点の山田候補を大きく上回った。
 今回の補選では、この自民票が宙に浮いた格好になっている。自民の各地域支部によると「名前を書く」と割り切る党員がいる半面、野党への抵抗感から白紙投票や棄権を選択するという声がある。
 離島選出の自民県議の一人は「投票に迷う支援者から20件以上の相談があった。『自民党』と書くという人も多い」と明かす。五島列島のある支部からは「党員は戸惑っている。受け皿となる候補を立てるべきだった」と恨み節が漏れる。
 山田、井上両陣営は、こうした複雑な心情を抱く自民支持層の存在も念頭に「候補者の名前と政策をしっかり訴えていく」と口をそろえる。