佐世保の「音食亭Brownie」あす閉店 ジャズ好き集い交流 グラミー賞受賞者にゆかりも

2024/04/19 [12:00] 公開

「店を支えてくれた皆さんに感謝」と話す三國さん(左)と真珠美さん=佐世保市、音食亭Brownie

 ジャズ好きが集う、長崎県佐世保市京坪町の飲食店「音食亭Brownie」が、20日で閉店する。オーナーでドラム奏者の三國隆さん(71)は、同市出身のパーカッション奏者でグラミー賞受賞者の小川慶太さん(41)=米在住=の師匠的存在でもある。「これまで店を支えてくれた皆さんには感謝しかない」と三國さん。佐世保からまた、ジャズの店が消える。
 三國さんは佐賀県出身。中学時代にベンチャーズのドラムに魅せられた。高校の入学祝いに親にドラムセットを買ってもらうと、レコードを聴いては“耳コピ”して猛練習した。
 三國さんが高校生だった1960年代後半、佐世保は「刺激的な町」だった。ロックやジャズの演奏家たちが腕を鳴らす店が並び、在日米軍向けのラジオ局「FEN」(極東放送網)では最新の洋楽が流れていた。三國さんは佐世保で初めて聞いた黒人の生歌の迫力に衝撃を受け、「そのときの感動が今の土台をつくった」と振り返る。
 高校卒業後は仕事をしながらバンド活動を続け、20代後半から地元佐賀のクラブでドラム奏者として働くように。「音楽漬けの毎日。楽しくて仕方なかった」と目を細める。40代前半のころ、佐世保市のライブ喫茶「ガァネット」で働くことになり、三國さんのうわさを聞きつけ訪れたのが当時高校生だった小川さん。以来、毎日のようにドラムを教えた。
     
 「音食亭Brownie」は、「自分が楽しめることを存分にやりたい」と2006年、54歳の時に開いた。店名は大好きなジャズトランペット奏者のクリフォード・ブラウンから拝借した。店にはミュージシャンや音楽好きが集うように。こぢんまりとした店内で開く臨場感あるジャズライブは多くのジャズ愛好家たちから支持され、佐世保を代表するジャズを楽しめる店の一つに成長した。

ドラムの演奏を披露する三國さん(左端)=佐世保市、音食亭Brownie

 数年前、三國さんは体調を崩し、妻の真珠美さん(60)が店を手伝い支えた。だが、昨年、間質性肺炎で入院。「客に迷惑はかけられない。そろそろ潮時かもしれない」。後ろ髪を引かれながら今年に入って閉店を決めた。
 閉店の話を聞き、小川さんは「思い出が詰まった店が閉まるのはとても残念だけど、いつまでも元気でいてほしいから、これからは体を大切にしてほしい」とのメッセージを寄せた。同市在住のジャズピアニスト、みおさんは「音楽愛あふれる三國さんがつくりだす、温かい店の雰囲気に引かれ多くの音楽好きが集い、交流する場所になっていた。閉店は言葉にならないほどショックだけれど、どうかゆっくり休んでほしい」と話した。
     
 佐世保からジャズの生演奏を楽しめる店が減り、昔ほどジャズを楽しめる町ではなくなった。閉店後は子どものドラム指導など、ジャズ奏者の育成に力を注ぐつもりだ。「いつか訪れた人たちから『佐世保はジャズの町』と言ってもらえるくらいジャズがあふれる場所になればいいなと思う」。三國さんは願いを込めてそう語った。