「ザ・バド・シャンク・カルテット」(1956年、パシフィックジャズ) 新生活の心のオアシスに 平戸祐介のJAZZ COMBO・37 

2024/04/15 [12:20] 公開

「ザ・バド・シャンク・カルテット」のジャケット写真

 心高鳴る新年度が始まりました。新しい環境で物事がスタートしていくこの時期、期待や不安が入り混じり緊張を強いられる場面もあるかもしれません。そんな皆さんの気持ちが少しでも安らぎ、幸せになる盤を今回は取り上げてみました。
 アメリカ西海岸ジャズシーンを代表するサックス奏者バド・シャンクが1956年にパシフィックジャズに残した名作「ザ・バド・シャンク・カルテット」です。シャンクはサックスの天才チャーリー・パーカーに大きな影響を受け1940年代中ごろから演奏活動を開始しましたが、キャリア初期の段階からジャズはもとよりブラジル音楽にも影響を受けていました。それはシャンク自身のプレイや楽器選択にも深く関係しています。
 シャンクはマイルドで粒立ちの良い温かい音色でアルト・サックスとフルートを主に演奏します。そのプレイスタイルは1950年代以降、活動拠点にしていたアメリカ西海岸のジャズシーンにぴったりはまり、人気のサックス奏者として名声を博します。
 活動が軌道に乗り心技体とも充実していた時期にこの盤は録音されていますので、シャンクのベストプレイが全編にわたり聴けます。収録曲もほとんどスタンダードナンバーで占めているあたりも自信の表れでしょう。
 そんな充実のシャンクを支えるのが「白いバドパウエル」とも呼ばれた名手クロード・ウィリアムソン、ベースはドン・プレル、ドラムはチャック・フローレスという西海岸をベースにしている鉄壁のリズムセクションでした。西海岸ジャズは当地の気候も関係していると思うのですが、全体的に軽やか、爽やか、穏やかと初心者の方がジャズを楽しむのに必要とされる3拍子がそろった入門盤的な作品が多いのも特徴です。
 特にこの盤は選曲、テンポの設定、全参加メンバーのリラックスしながらも洒脱な演奏が群を抜いて素晴らしい。またカバージャケットも秀逸です。シャンク自身を描いた水墨画が描かれ、一見したら2度と忘れないようなインパクトを持っています。
 そんなシャンクですが、知名度では同じシーンで活動していたライバル、アート・ペッパーに一歩及びませんでした。しかしペッパーにはない温かな音色、フレージング、リラックス感、これがシャンクの醍醐味(だいごみ)です。
 慣れない学校や職場での生活の中で、この盤はきっと皆さんのオアシスのような存在になることでしょう。私もニューヨークで大学生活を始めた頃、この盤をよく引っ張り出し愛聴していたことが思い出されます。
(ジャズピアニスト、長崎市出身)