核抑止克服は「理性」と「情」で ICAN事務局長が長崎で講演 被爆の実相伝える意義強調

2024/01/22 [10:30] 公開

200人以上の市民を前に講演したICANのメリッサ・パーク事務局長=長崎市、長崎原爆資料館

 核兵器禁止条約の制定に貢献した非政府組織(NGO)、「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)のメリッサ・パーク事務局長が21日、初めて長崎県長崎市を訪れた。市民向けに講演し「核抑止論は『理性』と『情』の両面があって初めて打ち破ることができる」と指摘。抑止論の危険性や誤りを理論的に批判すると共に、世界の人々の心に訴えるため、長崎から原爆の実相を発信し続けることが必要だと強調した。
 ICANは2017年にノーベル平和賞を受けた。オーストラリア出身のパーク氏は昨年9月、事務局長に就任。今月22日で同条約の発効から3年を迎えるのを前に来日し、広島や東京を巡っている。
 講演会は「核兵器のない世界へ 私たちにできること」と題し、長崎原爆資料館(平野町)で開催。200人以上が来場した。パーク氏は核抑止論が完全なものではなく、事故やテロ、人工知能(AI)の進展などにより「誤って使われる可能性がある」と問題点を挙げ、「実際に核兵器を使われた被爆者の体験も組み合わせて伝えることで、核抑止がいかに空疎なものか証明できる」と述べた。
 米国の「核の傘」に安全保障を依存し、同条約に参加していない日本政府について「核兵器を安全保障政策の一環と捉える限り、核軍縮をリードすることなどできない」と厳しく批判した。一方で被爆者に対して「体験を繰り返し証言し、人類と核兵器が共存できないというシンプルで深いメッセージを世界に発信してきた」と感謝。「多くの国で核兵器に関する教育が不十分。被爆者の声を中心に据えた教育を通じて、核兵器を正当化する考え方に挑戦状を突きつけることが必要だ」と語った。
 パーク氏は講演会に先立ち、被爆者や高校生らと平和公園(松山町)の「長崎の鐘」を鳴らし、鈴木史朗市長とも面会。鈴木市長は「日本は唯一の被爆国の義務として早期に核兵器禁止条約に参加し、世界をリードしなければならない」として、自身が副会長を務めるNGO「平和首長会議」とICANとの連携強化などを呼びかけた。パーク氏は原爆資料館の展示を視察し、被爆者や若者との意見交換会にも臨んだ。