長崎大に地域猫サークル 6月発足、葛藤しながら前向きに 幸せ願い命と向き合う日々

2023/09/21 [12:28] 公開

学外の人が地面にばらまいた餌を回収する今岡さん(右)と杉原さん=長崎市、長崎大片淵キャンパス

 全国でも猫の殺処分数が多い長崎県に、野良猫の不妊化など地域猫活動に取り組む学生たちがいる。6月に発足して以降、毎日交代で世話を続けており、時には葛藤に直面することも。それでも猫の幸せを思い、共生を目指して前に進む。20日から動物愛護週間。

◆どんな日でも世話
 最高気温が35度に迫っていた8月下旬の午後、長崎大片淵キャンパス(長崎市)で、2人の学生が集まってきた20匹近い猫たちを笑顔で迎えた。一皿ずつ小分けにして餌を与えると、「カリッ」「カリッ」という音が静かに響いた。半数以上の猫は片耳の先端がV字にカットされていた。不妊化が終わっている証しだ。
 学内にすみ着いたり、捨てられたりした野良猫を不妊化し、継続的に餌やりやふんの掃除を行う同大の学生サークル「ねこぺこ」(16人)。この日は代表の今岡明日美さん(19)=環境科学部2年=と、入部して間もない杉原陽向さん(18)=経済学部1年=が同キャンパスを担当した。餌やりを終えると、学外の人が地面にばらまいた不衛生な餌を回収し、ふんを拾った。
 正式に認められたのは6月下旬という発足間もないサークル。動物福祉に関心を持つ留学生5人を含めた部員16人は猛暑の日も、土砂降りの日も輪番で世話を続ける。今岡さんは「私を含め、最初は猫がかわいくて始めた部員がほとんど。でも外で生きる猫の大変さを知るようになってからは一匹一匹の命と向き合っているという責任を感じるようになった」。
     
◆「あなたに何ができるの?」
 「ねこぺこ」の発足は弱った子猫と代表の今岡さんの偶然の出合いがきっかけだった。入学して間もない昨年8月、長崎市中心部で消え入りそうな声で鳴く子猫を見つけた。捨てられたのか、親とはぐれたのか。「助けたかった」が、どうすることもできず、同市で地域猫活動などに取り組む「長崎さくらねこの会」に支援を求めた。
 交流サイト(SNS)を通じてメッセージを送ると、代表の山野順子さんから返信が届いた。「個人依頼の保護はやっていません」。諦めかけた時、今度は電話があった。「保護したとして、あなたに何かできるの?」。とっさに「譲渡先を探します。医療費も何とかします」と答えた。山野さんは「若い人の必死さに心を動かされた」と振り返る。
 その日を境に、今岡さんは同会のスタッフとしてさまざまな活動を手伝うようになった。ただ、猫について知れば知るほど毎日通う同大文教キャンパス(同市)の状況に胸を痛めた。すみ着いている数十匹のうち多くは不妊化が済んでいるものの、捨てられる子猫も目立った。山野さんに支えてもらいながら、友人たちと地域猫活動のサークルを立ち上げようと考えるようになった。

餌を食べる長崎大片淵キャンパスの地域猫=長崎市

◆人間の身勝手から
 片淵キャンパスでは、大学がサークルとして公認する少し前に活動を許可してもらった。早速、長崎さくらねこの会のメンバーと一緒に、捕獲後に不妊化して地域に戻す「TNR」に取り組み、毎日、餌を与え、掃除もするようになった。
 ただ、「子孫を残せない体にしていいのかな」という葛藤はあった。活動を始めて間もない頃、妊娠した母猫を不妊化するかどうかサークル内で意見が割れた。不妊化手術の実施は、おなかの赤ちゃんの死を意味した。一番頼りにしていた部員は涙を流しながら反対した。今岡さんも迷い、悩んだ。
 外部コーチに就いていた山野さんが部員たちに語り始めた。「猫は本来、人と共に生きる動物。野良猫は人間の身勝手から生まれている。この世に生まれた命を大切にしてはどうか」。行政機関に持ち込まれて殺処分される猫が長崎市だけで年間約200匹。さらに病気や飢え、交通事故などで苦しみながら死んでいく猫が無数にいることを伝えた。
 「今できるのは不幸な猫を減らすこと」と信じ、今岡さんは不妊化を決断。ただ、捕獲してみると母猫は既に出産を終えていた。子猫がどうなったかは分からなかった。
 
◆若い人が変われば
 葛藤を抱えながらも活動を続けている今岡さん。「今の部員が全員卒業した後もお世話ができるように仲間を増やしていきたい」と前向きに話す。誰かが手を差し伸べることで幸せな猫が増えるかもしれないと思うからだ。
 山野さんは「勉強もアルバイトも忙しい学生さんたちが命あるものに真剣に向き合っている」と頼もしさを感じ、「若い人たちが変われば世の中は少しずついい方向に向かうのではないか」と期待を込める。
 昨夏、山野さんが保護した猫に今岡さんは「天音(そら)」と名付けた。耳が聞こえない障害があるが、長崎さくらねこの会が運営するシェルターで元気に走り回っている。